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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 561|562

『大諸礼集 小笠原流礼法伝書(全2巻)』(島田勇雄・樋口元巳校訂)

2015/04/16
アイコン画像    「他人のために辛苦せよ」
小笠原流が説く礼儀の基本

 年度も替わり、ニューフェイスも加わり、何か心浮き立つ春の日。何かと挨拶を交わすことも多い季節ですが、「礼儀とは何だろう?」という単純な疑問が浮かんでしまいました。早速ジャパンナレッジで検索してみると、〈「礼」はその大なるもの、「儀」は小なるものをいう。社会のきまりにあった、交際上の動作や作法〉(「日本国語大辞典」)とあります。では「礼」を引いてみましょう。


 〈社会の秩序を保ち、人間相互の交際を全うするための礼儀作法・制度・儀式・文物など〉(同前)


 なるほど、ポイントは社会秩序と人間関係の維持、というわけですね。では具体的にはどうしたらいいか。ということで、礼の古典を紐解いてみました。『大諸礼集 小笠原流礼法伝書』です。小笠原流――〈俗に、堅苦しい礼儀作法のこと〉(同「デジタル大辞泉」)を指すほど、日本で最も有名な流派でしょう。で、この『大諸礼集』、「儀」に関して非常に細かい! 手紙の書き方に始まり、酌の仕方、立ち居振る舞いにいたるまで、懇切丁寧に説明しているのです。武士のマニュアル、といったところでしょう。ファッションに関してもページを割いていて、


 〈人のいしょうは、そうじてわかき人も、としのほどよりすこしくすみて出でたたれ候がよく候よし申しつたえ候。人のわかわかと出でたち候は、にあわず候なり〉


 くすみ……つまり派手でない、落ち着いた感じにせよ、ということでしょうか。若さに任せた若々しい格好は、〈にあわず〉と断じています(なるほど、リクルートスーツはくすんでいます)。

 と、途中まではマニュアル一辺倒なのですが、後半、リーダーの心得的な教えが登場します。


 〈けんじん(賢人)などほどの位になるほどの人は、さらに我が身という事をおもうべからず。ひとえに国のため民のため心をくだき、おのれをわすれ、人をはごくむべきなり〉


 政治家に読ませたい一節です。続けて、道理を守ることを説き、忠義や孝行、和を説き、〈みょうり(名利)をこのまず、ざいほう(財宝)をおもくせざるべし〉、と私利私欲を諫めます。もちろん、リーダーだけがそうすればいいのではありません。


 〈人は大かた、たかきもいやしきも、人のためにしんく(辛苦)をするならいなり〉


 ……無礼な人間になりたくないものです。

本を読む

『大諸礼集 小笠原流礼法伝書(全2巻)』(島田勇雄・樋口元巳校訂)
今週のカルテ
ジャンル教育
時代 ・ 舞台日本/室町時代末期
読後に一言戦前の教育に小笠原流が持ち込まれたという歴史はありますが、礼の基本は今日に通用するものです。
効用何に心をくだいていたのか――かつての日本人の心持ちが垣間見えます。
印象深い一節

名言
いかに才覚ありとも、道理にそむきたらん人は、学文せぬ人とぞのたまいしなり。
類書有職故実の古典『貞丈雑記(全4巻)』(東洋文庫444ほか)
古代中国の“礼”とは?『四書五経 中国思想の形成と展開』(東洋文庫44)
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