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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 79

『加波山事件 民権派激挙の記録』(野島幾太郎著、林基・遠藤鎮雄編)

2016/09/22
アイコン画像    132年前の大事件・加波山事件の真実
事件の原因は、世襲への批判だった

 〈1884年〈明治17 甲申〉9・23 茨城・福島の自由党員ら16人、加波山に集結、24日、警官と衝突(加波山事件)〉(ジャパンナレッジ「誰でも読める 日本史年表」)

 年表の日付をみてください。9月23日――そう、132年前のちょうどこの時期、世間を揺るがせた「加波山事件」が起こったのです。

 この事件、端的に言えば、〈栃木、茨城、福島3県下の急進的自由党員が明治政府を転覆しようとした事件〉です。〈挙兵参加者はわずか16名〉でしたが、〈専制政府の転覆を掲げた最初の挙兵であり、爆裂弾を使用した点でも初めて〉でした(同「ニッポニカ」)。

 理由はどうあれ、これは、〈テロリズムで対抗しよう〉(同「世界大百科事典」)としたものであり、まったく評価はできません。しかし、行動の裏には必ず理由があります。かつて日本にはテロが横行していた事実を知るためにも……と思い、事件の全貌を描いたとされる『加波山事件』を紐解きました。

 彼らは、政府転覆を目指す檄文を発して加波山に立てこもるのですが、その時の檄文の冒頭がこれです。


 〈そもそも建国の要は、衆庶平等の理を明らかにし、各自天与の福利を全うするにあり。政(まつりごと)をなす者はよろしくこの趣旨に基づき、人民天賦の自由幸福を増進すべくして、濫(みだ)りに苛法酷律を設け圧逆を施すべきものにあらざるなり〉


 文語調なのでややわかりにくいですが、乱暴に言ってしまえば、自由と平等を我々に寄こせ、ということでしょう。実際、彼らはこんな怒りを抱いていました。


 〈万銭の日食は、彼らの母胎遺伝にあらざればなり。爵位禄俸は、彼らの世襲財産にあらざればなり〉


 御一新(明治維新)で時代は変わった。そのはずだった。だが収入は生まれで固定され、身分は相変わらず世襲だ。自由と平等はどこへ行ったのか。

 さて加波山事件の首謀者たちを、132年後の私たちは笑えるでしょうか。例えば、『東京大学学生生活実態調査』(2014)によれば、東大生の家庭では年収950万円超が54.8%を占めます。国会を見ても、世襲議員がきわめて高い比率を占め、安倍首相もまた世襲議員です。芸能界も二世だらけ。私たちの職業や収入、学歴もまた、〈遺伝〉であり、〈世襲〉なのです。

 何も加波山事件を再び、ということじゃありません。ただ、当たり前のように権力が〈世襲〉されていくことに、私たちはもっと怒るべきなのかもしれません。



本を読む

『加波山事件 民権派激挙の記録』(野島幾太郎著、林基・遠藤鎮雄編)
今週のカルテ
ジャンル記録/政経
刊行年 ・ 舞台1900年・日本
読後に一言「かもしれません」とソフトにまとめましたが、私は一貫して、政治家の世襲に反対します。政治家と歌舞伎役者や職人を一緒にしてはいけません。
効用事件の実態が、手にとるようにわかります。
印象深い一節

名言
この迅雷紫電的の一団の壮客、志士は、濛々蒸々(もうもうじょうじょう)たる政治界の天地を一新し、人民をして蘇生の思いあらしめんがために、加波山畔に向かって進めり。(八四 自由の旗は翻る加波の朝嵐)
類書本書に序を寄せた同時代の政治家の伝記『星亨とその時代(全2巻)』(東洋文庫 437、438)
同時代の外交官・林董の回顧録『後は昔の記他』(東洋文庫173)
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