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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 680|683

『チョイトンノ伝1、2 クリシュナ信仰の教祖』(K.コヴィラージュ著、頓宮勝訳注)

2016/09/29
アイコン画像    アイドルもCMも……なぜ踊る?
16世紀インドの“踊る宗教家”

 解散が決定してしまったので今さらですが、SMAPを巡る一連の混乱の端緒は、事務所の上層部の「SMAPは踊れない」という発言でした。もちろん、文脈を無視していますし、発言はこれだけじゃありませんが、踊れないから「×」、というのは、考えてみると不思議な話です。確かに、EXILE一派はどんな曲でも踊っていますし、CMでもダンスだらけ。リオ五輪の開・閉会式も皆で踊っていました。

 “踊り”の一点で東洋文庫を眺めてみると、ありました! 踊りの本が! 〈ヒンドゥー教チャイタニヤ派の開祖〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)の伝記『チョイトンノ伝』です(チャイタニヤ、とも呼ばれます)。

 ざっくり説明すると、チョイトンノ(1485?-1533?)は、“踊る宗教家”です。

 何せ、こんな人なのです。


 〈チョイトンノ師は踊りを踊り、愛に憑かれて意識を失います〉


 初期の頃は、酔っ払ってるんじゃないか、と批判されます。つまり、そのように見えたということです。だって、毎日、信者と共に、〈太鼓やシンバルなどにあわせて歌い踊る詠歌行進〉(同前)をしたんですから。


 〈絶えることなく御名を唱え/御名を唱え唱えて、心から知識も何も全てなくなって/冷静になることができずに、心は酔い痴れ/笑い、泣き、踊り、歌って、まるで酔っぱらい……〉


 師匠から「愚かなお前は神の名を唱え続けろ」と言われたチョイトンノは、言う通り、〈御名を唱え〉続けていたら、いわば無の境地に到達してしまった。そしてこれこそ、〈最高の人生の目的〉だと悟るのです。

 時代も場所も異なりますが、私は、念仏踊(踊念仏とも)の一遍上人(1239-89)を想起しました。念仏踊も、〈念仏や和讃(わさん)を唱えながら、鉦(かね)、太鼓、瓢(ふくべ)などをたたいて踊る〉(同「ニッポニカ」)ものです。そしてそれは、〈宗教的エクスタシーを味わうため〉(同「世界大百科事典」)のものでした。チョイトンノと重なります。

 本書を読んでも、ヒンドゥー教の真髄も思想もさっぱり掴めませんでしたが、踊りの恍惚感だけは十分に伝わりました。つまり、♪同じ阿呆なら踊らにゃ損損(阿波踊り)、ということ。「SMAPは踊れない」に感じた違和感は、批判者もまた「踊れない」ということなのかもしれません。同様に、リオ五輪の開・閉会式に感じた気持ちよさは、誰もが踊っていたからなのでしょう。



本を読む

『チョイトンノ伝1、2 クリシュナ信仰の教祖』(K.コヴィラージュ著、頓宮勝訳注)
今週のカルテ
ジャンル伝記/宗教
時代 ・ 舞台15世紀後半から16世紀前半のインド
読後に一言チョイトンノの日常は、〈踊り歌って情感移入、そうして/意識を失っていきます、これがこの頃の日夜の生活姿〉ということですから、まさに〝踊り=悟り〟に生きたといえます。
効用独特のリズムのある文章をお楽しみください。
印象深い一節

名言
踊りなさい、歌いなさい、信者の方々と唱和しなさい(『チョイトンの伝1』第7章「五つの真理の物語」)
類書インドの国民的宗教の聖典『ヒンドゥー教の聖典 二篇』(東洋文庫677)
ヒンドゥーの生き方指南書『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(東洋文庫698)
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