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東洋文庫
『甲子夜話三篇5、6』(松浦静山著、中村幸彦・中野三敏校訂)

2016/12/22
   思うままにならぬ人生も好奇心で進め
完結編「甲子夜話三篇」を楽しむ(3)

 長らく続けて来ました「甲子夜話」シリーズも、これで打ち止めです。改めて、著者・松浦静山(1760~1841)についてみてみましょう。


 〈書名は文政四年(一八二一)一一月一七日甲子(きのえね)の夜から書き始めたことによる。天保一二年(一八四一)成立。正編一〇〇巻、続編一〇〇巻を書き、三編七八巻まで書き続けられたところで著者の死去によって途絶〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)


 すごいですな。本人、三篇も100巻をめざしたそうで、あと20余巻、書くつもりだったようです。息子に平戸藩主の座を譲っていたとはいえ、御年82歳。この書き続けた熱情には敵いません。

 例えばアヘン戦争。1840年に起こった中国とイギリスの戦争に関する情報を、静山は詳細に記します。ほとんどリアルタイムの記述です。イギリスには相当な関心を持っていたらしく、イギリス本土のレポートも書き写しています。かと思うと、遊女が方言でなんと呼ばれているか、聞き書きするんですね(ちなみに、越後寺泊では「手枕」、伊勢路櫛田では「出女房」……と、思わずニヤリとしてしまう呼び名です)。

 静山の「甲子夜話」シリーズが“面白い”のはまさにここにあります。アヘン戦争のような硬めの時事ネタだけでなく、色ネタも載せる。硬軟清濁併せのむところが、このエッセイにはあるのです。中でも特筆すべきは「川柳」でしょう。『甲子夜話三篇』の中でも、最晩年の本書第6巻になると特に掲載量が増えます。

 静山お気に入りの柳句をいくつかご紹介しましょう。


 〈一寸の草にも五分のはるのいろ〉
 詩情がありますな。


 〈ためいきを尻からついてしかられる〉
 私もよく、家族から叱られています。


 〈女房にほれるとさきが近くなる〉
 過ぎたるは及ばざるがごとし、ということで……。


 〈目についた女房此頃はなにつき〉
 前句とどちらが幸せなのか。


 〈我ものでわがまゝならぬ五十年〉
 人生五十年。自分の人生のはずなのに、思うようにならない。まさにその通り! ぐっと染み入りますなあ。


 こういう川柳を書き付け、ほくそ笑む。どうです? 静山の人となりが見えてきませんか? 彼は好奇心の塊なのです。知と好奇心は、不可分なのですね。



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