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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 23|30

『北京風俗図譜 1、2』(青木正児編、内田道夫解説)

2017/01/05
アイコン画像    まだ間に合う、幸せを呼ぶ正月の習慣
中国の旧俗を集めた博覧強記本を読む

 お正月をなぜ祝うのでしょうか。〈日本の民族形成に関しては諸説あっていまだ決着をみない〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」「正月」の項)のだそうですが、正月行事に中国の影響があることは間違いありません。そこで、東洋文庫から、正月のおめでたいものを探してみました。

 で、『北京風俗図譜』に、今からでもできそうな、新年の「おめでたい」風習を見つけました。〈めでたい正月を迎える縁起の文字〉を、〈紅い長い紙〉に書き、家の門または部屋の入り口の左右の柱に貼ればいいんだそうです。〈紅い〉というのがミソで、白はめでたくなくなってしまうそうなので、注意してください。

 では何と書けばいいのでしょう。いくつか紹介します。


 〈花開冨貴 花は冨貴を開き/竹報平安 竹は平安を報ず〉

 〈一入新春 一たび新春に入りて/万事順心 万事心に順う〉

 〈発福生財 福を発し財を生じて/大吉大利 大吉 大利〉


 何だかハッピーがやってきそうですね。〈そのほか正月には、いたる所に「出門見喜」「抬頭見喜」などの縁起のよい言葉がはりつけられる〉そうですから、日本風にいえば「言霊」と言いますか、文字の力を信じていることが伺えます。

 さて本書は、中国文学者の青木正児(まさる)氏によるものです。青木氏は、〈中国古典に関する注釈や書画、音楽などの芸術論から酒茶、食品に及ぶ博大な名物考証風の論考を残し、精深な中国理解を示した〉(同「ニッポニカ」)人です。本書は、青木氏が1920年代に北京に滞在した折、いまだここに古き風習が残っていることに感嘆したことに端を発します。〈今にして之を記録しておかなければ、遠からず湮滅してしまふであらう〉と考え、大急ぎで現地の画家に絵を描かせたり、資料を収集したり……と一冊の本にまとめたのです。中国に関して博覧強記の人ですからね。その守備範囲は広く、(1)歳時、(2)礼俗(婚礼、葬礼)、(3)居処、(4)服飾、(5)器用(化粧用具、台所道具など)、(6)市井(看板、ワンタン売りなど)、(7)遊楽(こおろぎのすもう、アヘンなど)、(8)伎芸(芝居、楽器など)、となかなか、興味深い読み物&絵でした。

 青木氏のようなレベルにはなかなか到達できないでしょうが、今年はその爪の垢でも煎じて飲みたいものです。



本を読む

『北京風俗図譜 1、2』(青木正児編、内田道夫解説)
今週のカルテ
ジャンル風俗/美術
時代 ・ 舞台1920年代の中国
読後に一言万事順心――世間や時代に左右されず、いつまでも変わらず、自分の心のままでありたいものです。
効用絵を眺めているだけでも、面白い!
印象深い一節

名言
余燕京に留学し、暇日往々街に遊びて風を観る。
類書同編者の著。中国蘊蓄エッセイ『中華名物考』(東洋文庫479)
清代末の北京の様子『燕京歳時記 北京年中行事記』(東洋文庫83)
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