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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『日本史1 キリシタン伝来のころ』(ルイス・フロイス著、柳谷武夫訳)

2017/03/02
   なぜ人々はキリシタンとなったか
宣教師が見た戦国日本 (1)

 ルイス・フロイス(1532〜1597)をご存じでしょうか。

 簡略に説明すれば、〈織豊時代に日本で活躍したイエズス会司祭〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)です。この方、〈早くから文筆の才能が認められ〉、〈フランシスコ・ザビエル以後の布教史の執筆〉(同前)を行います。それが、本書『日本史』(全5巻)です。

 戦国時代について書かれた専門書や歴史書を読むと、必ずと言っていいほど、この『日本史』が登場します。実際、〈近世初期の日本史研究には第一級の史料〉であり、〈観察と情報蒐集の的確さと詳述という点では抜群の価値が認められる〉(同「国史大辞典」、「フロイス日本史」の項)という評価です。

 〈第1巻〈日本総記〉(今日不明),第2巻〈1549年~1578年〉,第3巻〈1578年~1589年〉〉(同「世界大百科事典」、「日本史」の項)からなる膨大な記録だったそうですが、上司から〈冗長にすぎる〉(同前)と言われ、お蔵入りします。結局、1926年に写本がドイツ語で訳されるまで、何と忘れられていたのです。で、本書は、第2巻の全訳です。

 非常に安易な気持ちで紐解いたのですが、正直、圧倒されました。

 時は戦国時代です。各地で戦火があり、土地は荒廃しています。そこに見目の違う異教徒がやってきて、これまでの常識とかけ離れたことを口にする。出迎えた日本人にとって、それはビッグインパクトです。

 ところが、さらに踏み込んで信仰の道に入る人がいる。僧侶は、〈何人も悪魔であるこの人たちのことを信ずるな〉と張り紙するのですが、それでも突き進みます。


 〈幼少の頃から拝んでいる偶像や父母を忘れて、キリシタンになることを望み、(中略)デウス(=神)に対する愛から、どんないやなことでも耐えようという覚悟ができている〉


 信仰とは何だろうか、と考えざるを得ません。

 「世界観」という言葉が頭に浮かびました。宣教師には、〈世界の創造と天地万物の御作者〉がデウスであるという絶対の自信がある。ところが、この当時の日本にはその答えが用意されていない。イザナギ、イザナミは日本を作っただけです。中国など他国には他の創造主がいたことを知識として知っている。丸い地球という存在が明らかになると、では誰が創造したのか、と疑問が湧く。ここで「デウス」と断言し、仏教も神道も「異教」と切り捨てられる宣教師は、強い。確固たる世界観です。

 『日本史』の記述の詳細さと深さに圧倒されっぱなしです。丁寧に1巻ずつ読んでいくことにします。



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