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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 35

『日本史2 キリシタン伝来のころ』(ルイス・フロイス著、柳谷武夫訳)

2017/03/09
アイコン画像    キリスト教を広めたのは異常気象!?
宣教師が見た戦国日本(2)

 興味深い記事がありました。

 15世紀から19世紀にかけて、太陽活動が低迷していて、〈およそ400年間は、気温が現在よりも低下していたことから小氷期(小氷河期)とよばれている〉のだそうです。日本では、冷害・長雨が頻発し、飢饉が何回も起きています(田家康「【異常気象】小氷河期が戦乱を生んだ」文藝春秋WEB)。戦国期の戦乱は、〈侵略した地域での「乱取り」(掠奪)〉も目的のひとつでした。

 『日本史2』には、異常気象の証拠ともいうべき記述があります。


(1)〈雪がたくさん降ったために馬は度たび危険を冒し……〉

(2)〈病み老いたぱあでれは寒さと雪とに身をさらされ……〉(※ぱあでれ=司祭)

(3)〈その日は寒気甚だしく、たいへんな雪降りであった〉


 日本で雪が降るのは当たり前ですが、(1)は鹿児島、(2)は熊本、(3)は長崎なのです。南国・九州で、当たり前のように大雪に見舞われる。このように『日本史2』の1560年代の日本は、どうやら全体的に“寒い”のです。これは、食物不足に直結し、やがて貧困と戦乱へと繋がっていきます。そんな時に、ヨーロッパの宣教師が日本にやってきたのでした。追い込まれた状況下では、彼らは“救いの神”だったのではないでしょうか。

 武将たちにとっても、宣教師のバックについていたポルトガルの存在は魅力的でした。

 横瀬浦は、〈長崎県西海市西海町横瀬郷にある港〉で、〈1562年(永禄5)キリシタン大名大村純忠(すみただ)によって開港〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)されました。


 〈そこに大きなキリシタンの町ができ、そこの家々にはポルトガルの商人たちが商品を置いて安んじて泊まれるように、横瀬浦の港自体を教会に与えよう〉


 と、〈純忠は十年間の貿易税を免除し、横瀬浦の半分(西浦)を教会領〉(同「国史大辞典」)にしてしまうのです。寺社に寄進するように、教会に土地をあげちゃったんですね。純忠はそのあとも、〈イエズス会に対し長崎港市とその周辺および茂木の地を寄進〉(同、「大村純忠」の項)しています。日本に〝外国〟があったんですね。

 現代社会は「地球温暖化」の真っ只中で、異常気象が頻発しています。最近の世界の政治・経済の不安定さは、戦国期と同様、もしかしたら異常気象のせいかもしれません。



本を読む

『日本史2 キリシタン伝来のころ』(ルイス・フロイス著、柳谷武夫訳)
今週のカルテ
ジャンル記録/宗教
時代 ・ 舞台16世紀の日本(戦国~安土桃山時代)
読後に一言『日本史』は西日本の記述が中心ですが、全編を通して雪が降っています。
効用街や村の様子、庶民の暮らしなど、そうした記述も詳細です。
印象深い一節

名言
真言宗の人たちは我々は彼等が〔拝む〕大日を説くと言い、禅宗の人たちは我々のデウスは彼等の言う方便であると言い、法華宗の人たちは我々のデウスは彼等の妙であると言い、浄土宗の人たちは我々のデウスは彼等が〔崇める〕阿弥陀だと言い、神道の人たちは彼等が信じている国造Cocujoだと言う(注(第二十七章))
類書宣教師による18世紀チベットの記録『チベットの報告(全2巻)』(東洋文庫542、543)
宣教師による清代皇帝の報告書『康煕帝伝』(東洋文庫155)
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