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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 376|441

『ラーマーヤナ1、2』(ヴァールミーキ著、岩本裕訳)

2017/06/01
アイコン画像    はるか昔から世界は繋がっていた!
アジアに影響を与えたインドの叙事詩

 20世紀の後半、交通網や通信網が発達し、いわゆる「グローバリズム」が喧伝されるようになりましたが、よくよく考えてみたら、はるか昔から世界は繋がっています。正倉院や沖ノ島はその証左でしょうし、この本もまた、そのひとつの証拠です。

 『ラーマーヤナ』は、〈7巻2万4000詩節〉からなる、〈古代インドのサンスクリット大叙事詩〉です。インド国内で、〈後代の文学と思想に多大な影響を与え〉たことはもちろんですが、国外でも、〈ジャワ,マレー,ビルマ(ミャンマー),タイなどの文化に強い影響を及ぼし,中央アジアにも伝えられ,また中国や日本にも『六度集経』などの漢訳仏典中の仏教説話として伝えられた〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)そうです。交通網や通信網が未発達の時代に、インドの叙事詩が遠く日本にも伝わる。どうです? 世界は思っている以上に繋がっていたのではないでしょうか?

 では、『ラーマーヤナ』はなんぞや、というと、これが奇想天外なストーリーなのです。ラーマ王子というビシュヌ神の生まれ変わりが主人公で、本当にざっくりと言ってしまえば、父のダシャラタ王から追われたり、妃を誘拐されたりと、運命に翻弄されつつも、羅刹(鬼神)を退治し、最後は王位に就いて大団円、という物語です。

 ダシャラタ王には、ラーマ王子をはじめ4人の王子がいるのですが、彼らは皆、孝行息子なんですね。たとえばラーマ王子は、王に追われた際も、こう言うのです。


 〈父に従順に仕え、その言葉の通りにすることより以上に偉大な徳行は、なにもありません〉


 ラーマ王子は森に隠遁するのですが、その際も、


 〈わたくしはこの世においてなすべきことをするだけで、それ以外になにもありません〉


 ヒネクレ者の私はやや鼻白みますが、ヒーローとはこうしたものなのでしょう。さてラーマ王子はいかに! と物語がいよいよ佳境のところで、実は唐突に終わります。訳者の岩本裕氏が志半ばで逝去。中絶したのです。

 気になって確認すると、第1巻を上梓したのが70歳の時。第2巻は75歳になる年。全7巻ですから、5年に1冊のペースですと100歳で完訳となります。

 ラーマ王子の高潔さは私には真似できませんが、老いても果敢に挑む岩本氏の姿勢ならば、目標に掲げるぐらいならばできそうです。



本を読む

『ラーマーヤナ1、2』(ヴァールミーキ著、岩本裕訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
成立した年代

舞台
2世紀から3世紀頃のインド
読後に一言東洋文庫より『新訳ラーマーヤナ(全7巻)』(中村了昭訳)が刊行されていますので、全巻を読みたい方はぜひ。残念ながらジャパンナレッジには未収録ですが。
効用説話や伝説の集合体という側面もあり、未完ですが、読み応えは十分です。
印象深い一節

名言
……『ラーマーヤナ』(ラーマの行状記)を読誦する人は、子孫とともに、また眷属(けんぞく)ともども、天国に赴いて繁栄するであろう。(第一篇「少年の巻」)
類書同訳者による翻訳『完訳カーマ・スートラ』(東洋文庫628)
ヒンドゥーの根本文献『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(東洋文庫698)
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