週刊東洋文庫トップへのリンク 週刊東洋文庫トップへのリンク

1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 45

『今古奇観2 明代短編小説選集』(抱甕老人編 千田九一、駒田信二訳)

2017/06/08
アイコン画像    悪い役人vs良い役人
最後に勝つのはどっち!?

 「お役人」というものは、どこの国、いつの時代も問題があるようで、『今古奇観』を読んでいると、水戸黄門に出てくる悪代官のごとき役人がゾロゾロ登場します。

 役人がダメになる時は、ひとつ特徴があって、トップに左右されるということです。皆、上を見て右へ倣えで仕事をしているから、トップが嘘つきで仲間を優遇するとなると、自分も同じようにしてしまう。トップがごまかすなら、自分もごまかす、とこうなるわけです。

 では救いがないか、と言えばそうでもありません。いつの時代にも、清廉潔白な役人はいるものです(第16話)。

 時は唐の時代。宰相が賄賂を公然と取っているので、世は腐敗しています。ある落ちぶれた房徳という男が、ひょんなことから盗賊の仲間になってしまう。すると仲間になった途端に一網打尽。そんな房徳を、獄官の李勉が見て、その〈才貌をあわれんで〉逃がします。

 このことで二人の人生は一変します。逃げた房徳は県令にまで出世。逃がした李勉はクビで貧乏一直線。

 そして……出合うんですね、この二人が。感動の再会です。房徳は恩人・李勉に教えを請います。李勉の答え。


 〈ただ上は朝廷にそむかず、下は人民を苦しめず、死ぬか生きるかという瀬戸際に立っても、(中略)あくまでも本心を奪われることなく、悪人にまどわされ小利にさそわれて節を曲げるようなことを断じてしてはなりません〉


 いいですか、〈死ぬか生きるかという瀬戸際に立っても〉ですよ? それでも節を曲げるな、という。財務省や文科省の役人に聞かせてあげたいですな。

 房徳は恩人に報いようとします。ところが強欲妻が登場するんですね。恩を返すのももったいない。それどころか、強盗出身だとばれれば地位を追われるのだから、殺してしまえと唆す。世間知らずの妻が夫にあれこれ吹き込んで、道を誤る。どこかで聞いた話ですね。

 房徳は瀬戸際で、まどわされてしまったのです。で、暗殺者を送り込むのですが、義侠心の強い暗殺者は、事の次第を知り、逆に房徳夫妻を惨殺してしまう。助かった李勉は、清廉潔白を貫き、最後は出世したというお話。

 私は「理(ことわり)」という言葉を思い出しました。「日本国語大辞典」(ジャパンナレッジ)によれば、〈人の力では、支配し動かすことのできない条理。道理。物ごとのすじ道〉とあります。このお話には「理」がある。今の世にも盛者必衰の理があると信じたいなあ。



本を読む

『今古奇観2 明代短編小説選集』(抱甕老人編 千田九一、駒田信二訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
成立した年代1600年代の中国・明
読後に一言「自分のために」ではなく、「誰かのために」というのが、ひとつのポイントのようです。
効用16話の悪妻もそうですが、「ケチ」という人種は、人生にもケチがつきます。登場する数多のケチのとんでもない行動を笑い飛ばしてください。
印象深い一節

名言
よき人はまたよき人に助けられ/悪者はいずれは悪にいびられる(第11話)
類書唐代の小説『唐代伝奇集(全2巻)』(東洋文庫2、16)
漢族に伝わる『山東民話集』(東洋文庫274)
ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る