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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 351

『中国民衆叛乱史2 宋~明中期』(谷川道雄・森正夫編)

2017/12/07
アイコン画像    『水滸伝』に描かれた“悲哀”
中国の民衆が立ち上がるわけ(2)

 幼少期に『水滸伝』に熱中したという人は少なくないと思いますが、私もそのひとりです。この〈明代に完成された長編口語小説〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)は、早くも江戸期に翻訳され、山東京伝や滝沢馬琴らに影響を与えました。

 これ、実は、〈北宋末年、宋江を首領に、群盗が山東の梁山泊にたてこもった史実にもとづく物語〉(同「国史大辞典」)なのですが、本書『中国民衆叛乱史2』に実際、「宋江」の文字を見つけて嬉しくなりました。


 〈宋江が京東(京東東路・京東西路、現在の山東省一円)で叛乱した〉


 ただしここでの主役は、宋江ではありません。『水滸伝』の中では、強敵として現れる「方臘(ほうろう)」――〈宗教的秘密結社「喫菜事魔(きっさいじま)」(マニ教系とする説もある)の指導者〉です。彼の起こした「方臘の乱」は、〈約100万の民衆が反乱に加わった〉(同「ニッポニカ」)という大規模なものでした。当時の北宋では重税のほかに、皇帝の趣味で、〈花石綱(かせきこう)(珍木奇石の徴発・運搬)など過酷な収奪が行われ〉(同前)、民衆は苦しんでいました。方臘は民を前に演説します。


 〈政局を担当しているのは、どいつもこいつもあくせくと立ち回り、邪心を抱いて媚びへつらう連中で、ひたすら音楽や女色、土木工事などで皇帝陛下の心を惑わせている。朝廷の重大な政治は一切かえりみられていない〉


 正論です。一方で、方臘は残虐であったと史書は記します。役人を捕らえると、〈必ず身体の全体を細かく切り刻み〉、〈ありとあらゆる苦痛〉を与えて、人々の〈怨みの気持をはらし〉たといいます。

 「方臘の乱」は、1年持ちませんでした。本書解説によると、〈正規軍の精鋭をすばやく投入した〉のはもちろんのこと、〈宋江らに代表される投降した叛乱者たちをも鎮圧に差し向けたから〉です。『水滸伝』でも、梁山泊に集まった108人の英雄は、史実通り官軍に組み込まれ、方臘討伐に向かいます。そして〈鎮圧には成功するものの,多くの犠牲者がでて,英雄たちはちりぢりになる〉(同「世界文学大事典」)という悲しい終わりとなります。

 北宋滅亡後、臨安に都を遷して再建された南宋もやがて元に飲み込まれていくのですが、俯瞰してみれば、皇帝に歯向かった民衆の志は、報われなかったとも言えます。『水滸伝』に描かれた“現実社会の悲哀”に、今さらながら気づきました。



本を読む

『中国民衆叛乱史2 宋~明中期』(谷川道雄・森正夫編)
今週のカルテ
ジャンル歴史
時代 ・ 舞台中国/宋~明中期
読後に一言元末のグダグダぶりも興味深いものでした。政府がダメになると国が滅びる。歴史の必然を感じました。
効用900年代から1500年代の叛乱を扱っています。
印象深い一節

名言
甚だしいかな、小人、得るを患(くる)しみ、失うを患しみて禍を胎(のこ)すことの深きことを
類書北宋の首都・開封の繁昌記『東京夢華録』(東洋文庫598)
南宋の首都・臨安の繁昌記『夢粱録(全3巻)』(東洋文庫674ほか)
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