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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 74

『戦国策 2』(劉向編 常石茂訳)

2018/02/01
アイコン画像    この世は虎の威を借る狐だらけ
故事成語で予想する2018年(2)

 昨年来、政界を揺るがしているモリカケ事件ですが、まったくもって真相は藪の中。相撲や不倫より、大事なのはこっちだと思うんだけどなあ……。

 昨年の国会審議では、さまざまな興味深い発言がありましたが、個人的に首を傾げたのがこれです。

 「内閣府の、あるいは虎の威を借る狐が発言を用いても強行突破していただいたことを私は大変喜んで今日に至っております」(2017年7月25日、参議院予算委員会)

 発言の主は、加戸守行前愛媛県知事(元文部官僚、日本会議メンバー)。加計学園問題の参考人として国会に招致されました。その時の発言です。「虎の威を借る狐」って、それって官邸の圧力なんじゃ……。ようはこの御仁、他の発言をみても「虎の威を借る狐」を積極的に肯定しているんですね。プラスの意味で使っています。

 では「虎の威を借る狐」とは?

 〈他の権勢に頼って威張る小人物のたとえ〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)

 日国にもデジタル大辞泉にもこの意味しかありません。

 言葉の典拠は、『戦国策』の「楚策」です。というわけで、『戦国策2』を紐解いてみます。

 虎が狐を捕まえて食べようとします。すると狐。


 〈きみは、わたしを食ってはならぬ。天帝は、わたしを、すべての獣の長になさった。いま、きみがわたしを食えば、天帝のおいいつけに逆らうことになる〉


 狐は、証拠を見せるべく、虎の先頭に立って歩いて行きます。狐の後ろの虎を見て、逃げ出す動物たち。それを見た虎は、狐の言うことを信じる。そんな逸話です。

 これ、改めて読んでみると、「権威」のあり方がよくわかります。まず狐が持ち出すのは「天帝」です。「天帝に命じられた」という嘘で、自分を権威づけるわけです(カケ問題でも「総理のご意向」という言葉が跋扈しました)。で、お次は虎と一緒に歩くことで周囲をひれ伏させる。スネ夫とジャイアンの関係です。

 ポイントは2つあります。

(1)嘘から始まっている。

(2)天帝という権威が絶対視されている。

 先の御仁は「虎の威を借る狐」を評価しました。逆説的にいえば、嘘はついてもよく、権威は絶対視すべきである、ということなのでしょう。まるで大本営発表のごとき理屈ですが、残念ながらそれが通るのが、今の日本なのです。今年もこの流れが続くのでしょうか……。



本を読む

『戦国策 2』(劉向編 常石茂訳)
今週のカルテ
ジャンル歴史/政経
時代 ・ 舞台紀元前400年代~200年代の中国
読後に一言本書に出てくる故事成語。〈群羊を駆って猛虎を攻める〉。弱者連合が強者に立ち向かう、という意味ですが、まるで今の野党のようです。で、〈どう努力しても勝ち目のないことのたとえ〉(「デジタル大辞泉」)だそうです。
効用〈財産によって交わるものは、財産が尽きれば交わりが絶え〉るのだそうです。
印象深い一節

名言
綿々たるを絶たずんば、縵々たるを奈何せん(綿綿を絶たずんば蔓蔓を若何せん/つる草を放っておくと手がつけられなくなるのと同じで、物事は最初のうちに処置しないと、大きくなってからではどうにもならない)(297 蘇秦 合従を説く(四))
類書紀元前の中国の説話『中国古代寓話集』(東洋文庫109)
中国の社会の流れ『中国社会風俗史』(東洋文庫151)
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