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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 631

『祭』(松平斉光著、飯島吉晴解説)

2011/09/22
アイコン画像    運動会の“綱引き”の起源は祭りにあった?! 
民俗学の古典的名著から日本の秋を感じ取る。

 スポーツの秋である。最近では運動会を春に行う小学校が増えてきたが、私の頃は、“秋の運動会”だった。

 最近、「親」として運動会に参加することが多いのだが、決まって「綱引き」をさせられる。これがキツイ。一度、酸欠状態になって倒れそうになったことがあるぐらいで、翌日の筋肉痛は必至である。いったい、なぜこんなことをしなくちゃいけないんだ、とやや腹を立てつつ調べてみると、東洋文庫に格好の文献を見つけた。『祭』である。

 本書によると、日本各地で祭事として綱引きが行われているらしい。もっとも、日本オリジナルというわけではなく、〈宗教的な意味をもつ年中行事〉として、〈狩猟民ではエスキモーおよびイヌイット、カムチャツカ半島のイテリメン人、また農耕民族では東アジア、インドシナ半島などの水稲耕作民の間で盛んに行われた〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)ものだそうだ。

 本書の綱引きの分析は興味深い。

 神事での綱引きも当然、二手に分かれるが、その際、氏神も2つに分かれるというのである。


 〈神の本性は、かく相競う二要素を綜合するにある。自ら活動する事なく、自らを和荒両魂に二分し、之に働かせるのである。二者を相競わせつゝも和合させ、和合させつゝも躍動させる。其処に部族の繁栄は得られ、其処に部民の繁殖は期せられる。これが氏子を守り給う氏神の本質なのである〉


 もともと1つであるものが、地域的、歴史的に2つに分かれて競う(神事の際は勝負として真剣に行わない場合も多い)。競い合いはエネルギーを生む。

 綱引きが古くから神事として行われた沖縄の様子。


 〈綱引はその興奮の最高潮で、双方見物人迄も味方に引き入れ、女連は三味線を割れん許りに掻き鳴らして声援する〉


 なるほど、固定化された地域では、エネルギーは生まれにくい。だからあえて、1つの地域を2つに分ける。それがぶつかりあうときにエネルギーは生まれ、最終的に1つに融合した際には、地域は新しく生まれ変わるというわけだ。綱引きは元来、〈年占(としうら)や豊作・豊漁祈願の意を込めて行われることが多かった〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)というがそれも納得。

 調べれば調べるほど、綱引きのありがたさがわかってきた。仕方がない。今年も綱引きで酸欠になるとしよう。

本を読む

『祭』(松平斉光著、飯島吉晴解説)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
時代 ・ 舞台日本
読後に一言祭の興奮が伝わって来ました。
効用「変わらないもの」を見直す契機となるのでは。
印象深い一節

名言
祭礼は特に貴重である。蓋し我々の民族が太古から持ち継いだ文化のあらゆるものがそこに含まれているからである。
類書祭のスケジュール『東都歳事記(全3巻)』(東洋文庫159、177、221)
神社縁起や説話を集めた『神道集』(東洋文庫94)
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