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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 416

『朝鮮の料理書』(鄭大聲編訳)

2012/02/02
アイコン画像    キムチの主役の唐辛子はどこから来た?
「料理」から見えてくる朝鮮半島。

 朝鮮半島シリーズ第2弾のテーマは「料理」。

 以前、韓国に仕事で行った際、ついてくれた韓国人ガイド(元高校歴史教師)が、「唐辛子」について面白いことを教えてくれた。豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、大砲の弾の中に唐辛子を込め、目つぶしとして使ったのだという。戦後、戦地から唐辛子が生え、それをキムチに入れるようになった。トリビアな話だが、その時は「へぇー」で終わっていた。突然、この話を思い出して、ジャパンナレッジで調べてみることにした。

 東洋文庫には格好の書がある。その名も『朝鮮の料理書』。「屠門大嚼」(1611年)、「飲食知味方」(1600年代)、「閨閤叢書」(1800年代前半)の3冊が収録されている。

 というわけで「キムチ」で『朝鮮の料理書』を検索。8件ヒット! ただしキムチは「朝鮮の漬物の総称」なので、唐辛子の起源とは関係ない。実際「ニッポニカ」(ジャパンナレッジ)にはこんな記述も。


 〈キムチにトウガラシが用いられるようになったのは17世紀の後半ごろからで、このころからキムチの作り方が多様になった〉


 では、トウガラシor唐辛子では?

 なんと『朝鮮の料理書』でのヒット数は0件!

 またまた「ニッポニカ」で「トウガラシ」を調べてみる。


〈日本への渡来は、天文11年(1542)ポルトガル人によって伝来したとされる(『草木六部』)。ほかに文禄年中(1592~96)豊臣秀吉出兵のおりに高麗より(『花譜』)、慶長10年(1605)朝鮮より(『対州編年略』)などの諸説がある〉


 奇っ怪である。朝鮮の1600年代の書には「倭国から来た南蛮椒(=唐辛子)」という記述もある。コロンブスが南米で発見した唐辛子は、やがて欧州全体に広まり、アジアにやってきたのは16世紀。いったいこの唐辛子、朝鮮が先か? 日本が先か?

「屠門大嚼」にこんなくだりがある。


 〈我が国(朝鮮)は、中国からみれば片田舎とはいえ、海や大きな江(かわ)がめぐり、高い山がそばだっているので、産物が豊富である〉


 自分とこは田舎だけど、喰いもんはうまい! この謙遜と自負。ちっぽけなことにこだわってはいけませんな。反省。どっちが先とは問わず、わずかな期間で、唐辛子を国民食にしてしまった朝鮮の食文化に、ここは拍手を送りたい。

本を読む

『朝鮮の料理書』(鄭大聲編訳)
今週のカルテ
ジャンルフード/実用
時代 ・ 舞台1600~1800年代の朝鮮半島(韓国・北朝鮮)
読後に一言ああ、キムチ食べたい(焼き肉も!)
効用〈醤油を入れた水の方を沸かしてから、魚を入れ、酒を少し落すと骨がやわらかくなる〉など、実用的な記述も豊富。
印象深い一節

名言
元来、食欲と色欲は人間の本性である。(「屠門大嚼」序)
類書朝鮮半島の四季折々『朝鮮歳時記』(東洋文庫193)
隣国の料理書『中国の食譜』(東洋文庫594 )
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