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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 285

『子育ての書1』(山住正己・中江和恵編注)

2012/05/17
アイコン画像    DQNネームから見える、現代の子育てとは?
近世以前&近世の「子育て書」を読む。

 〈父母には、責任をもって自分たちの子どもを育てる役割があるというのは、今日では子育ての常識となっているが、これが明確な主張としてあらわれるのは、明治初期、啓蒙思想家たちの子育て論以後である〉


 こんな一節を東洋文庫『子育ての書1』に発見して、ちょっとホッとした。出来の悪いガキの親として、小学校のPTAなどにも関わっているが、何かここ最近の風潮として、「親の責任」を言いすぎていると思う。「責任」という考え方が怖いのは、行きすぎると「自分勝手」になることだ。「自己責任でやってるんだから好き勝手でいいでしょ」という理屈だ。その考えで子育てをすると、子ども=親の所有物となる。だからDQN(ドキュン)ネームなんてものも登場する(ちなみに最近、ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」には、〈どきゅん〉が収録されましたよ)。


 では明治安田生命(http://www.meijiyasuda.co.jp)の「生まれ年別の名前調査2011」の中から問題。


 (1)瑛崇♂ (2)心暖♂ (3)葵絆♀ (4)華弥♀ (5)叶星♂


 これ、実際に2011年に名付けられた名前。戸籍には「読み方」を登録する必要がないので、実は常用漢字・人名用漢字であれば、理屈ではどんな読み方でもいいのだ。

 さあ、あなたはいくつ読めますか? 答えは以下。


 (1)エイス (2)コノン (3)キズナ (4)ハナビ (5)トキ


 DQNネーム、何もこれをつけるのが駄目なわけじゃない。でも私はここに「自己責任=自分勝手」という例の屁理屈を見出してしまうのだ。子どもは決して親の持ち物じゃない。ちなみに本書には、江戸初期の儒者・山鹿素行の「名付け術」が掲載されている(「山鹿語類」)


(1)名を以て生まるるを信と為す(その子には持って生まれた相応しい名がある)

(2)徳を以て命(なづ)くるを義と為す(その子の性格にあった名をつける)

(3)類を以て命くるを象と為す(その子の顔カタチにあわせる)

(4)物に取るを仮(け)と為す(その時起こった出来事に由来させる)

(5)父に取るを類と為す(父の名前から字をもらう)


 が、当の素行さんも〈好んで悪名を付け、人に知られん事を欲して不思議の名を付け〉ることが多いと嘆いている。昔からDQN名前問題があったのかも……。

本を読む

『子育ての書1』(山住正己・中江和恵編注)
今週のカルテ
ジャンル教育
時代 ・ 舞台1400~1700年代の日本(1976年刊行)
読後に一言冒頭の編者の論「子育てと子育ての書」を読むだけで、いろいろなことに得心しました。
効用第1巻は世阿弥にはじまり、徳川家康や上杉鷹山、貝原益軒や中江藤樹など。賢人たちの子育て論に唸らされます。
印象深い一節

名言
欧米人は、日本の子育てにおける自然への依存に注目し、また日本の子どもを自然の子といった。(「子育てと子育ての書」)
類書子どもに遺したい教え『家訓集』(東洋文庫 687)
中国・六朝時代のしつけの書『顔氏家訓(全2巻)』(東洋文庫 511、514)
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