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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 293

『子育ての書2』(山住正己・中江和恵編注)

2012/05/24
アイコン画像    江戸時代の人たちも「子育て」に悩んでいた?
江戸の識者が世に問うた子育て論全27本。

 本の売れ具合には、時代の潜在的欲求が大きく関わっているなあ、と思う。例えば、中野孝次の『清貧の思想』(草思社/71万部)が出版されたのはバブル末期の1992年。小泉首相時代の2005年のベストセラーは藤原正彦の『国家の品格』(新潮新書/265万部)。「潜在的」ゆえに、出版人は苦労しているわけだ。

 本書『子育ての書2』は、江戸時代に書かれた「子育て論」集成、ともいうべき本で、登場するのは、本草家の貝原益軒や経世家の林子平、有職家の伊勢貞丈や農家の山名文成、戯作者の永井堂亀友や心学者の手島堵庵などバラエティに富んだ23人だ。つまり、社会が安定した江戸時代の潜在的欲求に、“子育て”があったということではないか。顕在的に子育てに悩んでいる(欲求している)私としては、そりゃ藁にもすがるように読みましたよ。

 300年近く前の子育て論と思って軽く見ていたのですが、決して儒教クサイものばかりじゃなく、現代にも通ずる考えが、数多く散見されました。以下、気になった箴言を列記しましょう。


 〈自身正しからずして子を正さんとすること、大なる誤りなり〉(儒者・室鳩巣「不亡鈔」)


 〈父の身の行ない正しき家の小児は、それを見習いて正しきまねをするなり。常にまねる故、詞にて教えずしておのずから行儀正しきものなり〉(伊勢貞丈「安斎随筆」)


 最近上の息子が、テレビ番組を観ながら「バッカだな~」と口癖のように言うので、「やめなさい!」と叱ったのだが、よくよく考えたら、自分の口癖でした……。


 〈とかく絵ある書物または軍書(軍記物語)など見せて、ひとり書物を好むようにするが肝要なり〉(儒者・湯浅常山「文会雑記」)


 〈幼少の時に覚えたことは、善悪ともに、一生の主となる。(中略)骨が強張ってからは、教えが入りにくい〉(心学者・中沢道二「道二翁道話」)


 早期教育をせよ、というのも本書収録の子育て論に共通した見解。しかしこれ、「勉学」の早期教育じゃない。生きる姿勢や心の持ち方について、だ。


 〈子供はじめは 性善なれど 愛が過ぐれば 気随になるぞ〉(僧侶・知真庵義観『子守歌』)


 愛の加減が難しいんだよなあ、と思いつつ、結局は自分がどう生きるか、振る舞うかってことなんだよなあ。

本を読む

『子育ての書2』(山住正己・中江和恵編注)
今週のカルテ
ジャンル教育
時代 ・ 舞台江戸時代の日本(1976年刊行)
読後に一言江戸の人が考える「立派な人」は必ずしも現代的ではありませんが、今に通底する「善」を、もっと積極的に学んでもいいのかもしれません。
効用江戸時代の人たちの「子育ての悩み」と「子育ての基本」がうかがい知れます。
印象深い一節

名言
世の中に人の生まれ出たる所は皆すなおなれども、教えを用うる事なければ、我儘に曲がりくねるなり。(心学者・柴田彦太郎「世わたり草」)
類書心学者が著した江戸の社会教育の書『鳩翁道話』(東洋文庫154)
本書にも登場する伊勢貞丈の有職故実の古典『貞丈雑記(全4巻)』(東洋文庫444ほか)
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