堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

日本橋魚市第一巻 一冊 十四丁

朝からイナセな男たちの声が飛び交う魚市

早朝だというのにこの人出!よく見ると風呂敷を背負った観光客の姿もあります。活気あふれる日本橋魚河岸はお江戸の人気観光スポットでした!

1590年(天正18)江戸城に入城した徳川家康は城下町の発展のため、関西からゆかりの深い商人や職人達を積極的に誘致しました。摂州佃村の名主・森孫右衛門も、佃・大和田両村の漁夫三十余名を率いて江戸入りし、徳川将軍家の御魚御用を命じられています。やがて幕府に献上した残りを日本橋本小田原町・本船町に魚市を開いて一般向けに商うようになりました。これが日本橋魚河岸の発端です。以来、たくさんの魚介類がこの魚河岸に水揚げされるようになります。毎朝江戸湾や房総沖で獲れた鮮魚が、絵にあるような小型高速船・押送船(おしおくりぶね)で我先に魚河岸へと運ばれてきました。7挺(ちょう)の櫓を絶えず動かして逆風もいとわず前進するその様子は、

初鰹 ムカデのような 船に乗り

という川柳にも詠まれています。

江戸湾はもちろん、房総沖、相模湾などで獲れた新鮮なお魚が次々に到着。電気冷蔵庫がない当時はとにかく早さが勝負です!

急いで運ばれた魚は急いで売らねば意味がない、ということで、鮮魚を商う魚河岸の男達はとにかく非常にせっかちで、喧嘩口論が絶えませんでした(同業者とも、客とも。現代ではありえませんね)。しかし、火事と喧嘩は江戸の華、というくらいで、「てやんでぇ、べらぼうめぃ、男は喧嘩っ早いくらいのほうがいいんでぃっ」と、素行が改まる様子はまるでなく(笑)、むしろそれが魚河岸の男達らしさであるとして受け入れられていたようです。彼らの生き様は髪型にも表れ、ちょんまげの先を散らしたり、ピンと立てたりして不良っぽいアレンジにしていました。これが鯔(いな)の背びれ(鯔背)に似ていることから、イナセという言葉ができたという説があります。イナセとは、魚河岸の男達のように威勢がよくてさっぱりした、江戸っ子らしい気質のことを言うんですね。



マグロは江戸っ子の口に合わなかった!?

魚はこのように、板船と呼ばれる板の上に並べられて売買されました。

魚河岸のみなさんの威勢のいい声がいまにも聞こえてきそう! 右上ではハンドサインによるセリが行なわれています。

鯛やヒラメが並んでいますね。こういった白身のさっぱりした魚が江戸っ子には好まれたんですね。ぼてっとしたお腹を上に向けているのはアンコウでしょうか。アンコウも江戸ではポピュラーな食材。

アンコウは 唇ばかりが 残るなり

と川柳に詠まれた通り、唇以外の部位は無駄なく食せるので重宝がられたようです。しかし、そろばんをはじくお兄さんの背後にぞんざいに積み上げられた巨大な黒い魚はなんでしょう? このぞんざいぶりからすると鮪(まぐろ)かもしれませんね。

鮪は別名シビといい、これが死日につながるから縁起が悪いとされ、徳川将軍家の食膳にのぼることは決してありませんでした。また、赤身の部分が血肉を連想させ臭みがあるので好まれず、獲れても下魚として捨てられることが多かったようです。脂が多いので、冷蔵庫がない当時では日保ちが悪く、扱いづらかったというのもあったでしょうね。幕末になってから鮪が大豊漁のとき、なんとか食べることができないかと“づけ”が考案され、やっと寿司ネタなどとして市民権を得るようになってきました。ただ、トロの部分は「てやんでぇ、こんな脂っぽいもん、まどろっこしくって食えるかぃ」といって捨てられていたそうです。もったいないっっ!

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

日本橋のいま②

日本橋北詰に建つ「日本橋魚市場発祥地碑」。関東大震災を機に築地へ移転するまで300年余りのあいだ、魚市場はここから北(現在の日本橋本町1丁目、日本橋室町1丁目)に位置していました。鰹節のにんべん、海苔の山本海苔店など、海産物を扱う老舗のいくつかは日本橋に残り、いまでも魚河岸の名残りを感じることができます。首都高に上空を覆われ、すっかり川の水も淀んでしまったかのように見えた日本橋川ですが、2011年4月、架橋100周年を記念して橋のたもとに船着き場が完成。現在はさまざまな周遊クルーズが開催されており、年間5、6万人が利用。東洋の水の都として栄えていた江戸。ようやく復活の兆しが見え始めています。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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