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けなす編 第8回

金銭を判断基準とする人をけなす

高額所得者と交際すると次の言葉で批判される可能性がありますが、気にする必要はありません。相手が逮捕されても無一文になっても同じように交際をつづければ、そんなことを言う人はいなくなるでしょう。

  • 1拝金(はいきん)

    神仏を拝むように金銭を崇拝することにいいます。「日国」第二版の「はいきんしゅう(拝金宗)」の項目には、拝金宗一名商売のススメ〔1886~87〕〈高橋養雄〉「本書はThe worship of almighty moneyより思い当りて拝金宗と名づけ」という用例があり、英語に由来する言葉であることがわかります。さらに、「はいかきょう(拝火教)」の項目には百学連環〔1870~71頃〕〈西周〉二・上「百児西亜(ペルシア)の教法をFire worship(拝火教)とて」用例の年代から考えると「拝金宗」は「拝火教」の影響を受けた可能性もありそうです。

    真善美日本人〔1891〕〈三宅雪嶺〉日本人の任務・二「拝金の為め玉石を混同し、而して国民の品格を顧みざる有るは」

    「拝金」的な思想が国の「品格」を落とすという考え方は明治時代すでにありました。が、著者は「殖産工業」を否定するものではなく、ここでは農産物増産に役立つものをつくる事業を優先すべきだと述べています。

  • 2拝利(はいり)

    「拝金」から派生した言葉。金を崇拝し、金銭的な利益を最優先することにいいました。現代この言葉は一般には用いられていませんが、企業活動を批判する文章にはぴったりです。

    社会百面相〔1902〕〈内田魯庵〉台湾土産「僕らは此頃はハイ子(ネ)よりは拝利(ハイリ)だネ」」

    日本領となっていた台湾から帰朝した男が旧友と会食しているところです。学生時代は「ハイネ」の詩を愛した彼も、台湾の日本人社会で「道徳といふは生存競争に堪へられない無気力漢(いくぢなし)が自分を保護する武器に過ぎないよ」と考えるようになったのでした。

  • 3儲主義(もうけしゅぎ)

    金儲けを第一とする考え方のこと。実業家の考え方にいうことが多いのが、政治家や公務員にもいう「拝金」主義との大きな違いです。

    坑夫〔1908〕〈夏目漱石〉「儲主義(マウケシュギ)は大いに軽蔑してゐた」

    主人公(19歳)は家出をしてぶらぶらしていたら、坑夫の仕事を紹介されたのです。紹介者は「本当に儲かる話なんだから是非遣り給へ」と言うのですが、用例のような青年だから、「さっきから儲かる儲かると云ふのを聞くたんびに何の為だらうと不思議に思ってゐた」のでした。

  • 4銭金尽(ぜにかねずく)

    「銭尽」あるいは「金尽」ともいいます。関東以北では日常会話中に「ぜに」を使うことが少ないだけに、「拝金」よりも強い印象を与えるでしょう。

    雑俳・柳多留‐六〔1771〕「美しひ顔で銭金つくをいひ」

    衣装をつくってくれだのなんだの要求が多い遊女をよんだもの。「傾城(けいせい)の恋は金(かね)持って来い 」というくらい、遊里は金のかかるところでした。

  • 5(かね)()(くら)

    金銭への欲のため、道理や善悪などを考えられなくなることにいいます。「くらむ」は、暗くなることでもあり、「目が暗む」でも間違いではありません。

    爛〔1913〕〈徳田秋声〉三八「金に目の(クラ)んだ兄に引られて、絶望の淵へ沈められて行った」

  • 6(かね)があれば馬鹿(ばか)利口(りこう)旦那(だんな)

    むやみに高額所得者を尊敬する人に教えたいことわざ。金銭を持っていればどんな人でも利口者のような扱いを受け、尊敬されるという意味です。 もしあなたが高額所得者で、このようなイヤミを言われたら「阿彌陀(あみだ)も銭程(ぜにほど)光る」と反論しましょう。

  • 7利潤(りじゅん)(ふけ)るは商人(しょうじん)(しつ)

    あまり利益ばかりを追求すると商売に失敗する、という意味のことわざ。 企業経営者に教えてあげましょう。

  • 8悪銭(あくせん)()()かず

    このことわざでいう「悪銭」とは、不正な手段によって得た金銭のこと。世間話で、金に目がくらんで法を犯して得た金を失った人のことが話題にのぼったときに、「昔から……というじゃありませんか」」の形で使うことができます。

    ゆく年〔1928~29〕〈久保田万太郎〉一「といふのも悪銭身につかずだ。-もち逃げなんぞした、しゃうろでねえ金の、いつまで身につくわけがねえ」

    家の金を持ち逃げして出て行った息子が最近寄越した手紙について、59歳の男が自分の弟に話しているところ。問題の息子は、「わかりもしねえ相場なんぞに手を出」し、失敗してしまったのでした。

  • 9泡金(あぶくがね)

    不正に得た「悪銭」をこのようにもいいます。「泡銭(あぶくぜに)」とも

    裸に虱なし〔1920〕〈宮武外骨〉「世の富豪なる者は其アブク金(ガネ)の使ひ途に窮して、角馬鹿気た事をしたがるものである」

    用例につづけて、「成金輩が金を儲けて何をするかと見れば、第一に家を新築する、第二には自動車を買ふ、第三に女を漁る、第四に書画骨董を集める、その書画骨董に対しては<略>只何か無しに高価なものでさへあれば好いと思って居る」。80年以上も前の文章ですが、現代の「アブク金」の使われ方と大差がありません。明らかな違いといえば、「自動車」が「高級自動車」になるぐらいでしょうか。航空機を買う人もあるようですが、宇宙船はもう少し先になるようです。

2006-02-06 公開