「鹿児島県南部、種子島の西方12キロメートルに位置する島。面積8.2平方キロメートル。かつて入植も行われたが、土壌が農耕に適さず現在は無人島。ニホンジカの亜種マゲシカが生息する。付近はトビウオの好漁場」(「デジタル大辞泉」)
 無人島としては国内で2番目に大きいこの静かな島が、にわかに騒がしくなっているというのだ。
 『週刊ポスト』(11/16号、以下『ポスト』)によれば、この島の所有者である立石勲(いさお)・立石建設工業会長が「中国の企業が何社か接触してきている。日本の対応次第では売ってもいい」と言いだしたというのだ。 
 立石氏は遠洋漁業の船長をした後、上京して不動産会社「立石建設」を設立。高度成長の波にも乗って一大グループを築いた。
 立石氏に馬毛島購入を勧めたのは、防衛省元幹部だった。
 「国防は30年、40年先を読まなくてはいけない。馬毛島はいつか、日本防衛の有力な基地になる」
 そこで立石氏は、自ら率先して住民票を馬毛島に移し、次々に島の土地を買い足していった。彼がこの島に投じた金は150億円にも上るという。
 立石氏は「島には3万人は収容できるし、軍隊向きの港も兼ね備えており、今すぐにでも米軍に提供できる」と話し、米軍によって幾度となく軍用化が検討されてきたが、それ以上は進展しなかった。ところが今年8月の尖閣(せんかく)諸島騒動で事態は一変した。
 防衛関係者がこう語っている。
 「馬毛島の周辺には佐世保や沖縄などの米軍基地があって地政学上、非常に重要な場所です。ここを本当に中国に取られたら国防上、危機的な状況に陥ると省内で危ぶむ声が高まってきた」(『ポスト』)
 北澤俊美(としみ)防衛大臣(当時)が立石氏に島を買わせてくれと持ちかけたが、その額は50億円にも満たないもので、まとまらなかったと『ポスト』は書いている。
 「外国企業が離島を買うとなっても法的に禁止することができません。さらに問題なのが日本の法体系の中には買った土地に対する禁止条項がないこと。個々の自治体による行政上の制約はあるが、安全保障上の規制ではない。例えば通信施設が作られたとしても、国として強制的に立ち入り調査することはできないんです。外国企業に島を買い取られた場合、島を日本の監視下におくことは現実的に難しい」(防衛省幹部・『ポスト』)
 中国による日本列島買い占めは、日本政府だけではなく米軍にとっても頭の痛い問題のようである。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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