すこし甘辛く炊いた椎茸(しいたけ)と干瓢(かんぴょう)、たれを付けて焼いた穴子を刻み、寿司飯(すしめし)と混ぜ合わせ、そのうえに錦糸卵をたっぷりとかけた状態で蒸し上げた、ちらし風の熱々の寿司。仕上げに、錦糸卵のうえに海老(えび)、銀杏(ぎんなん)、煮物、紅しょうがなどを盛りつける。ぬく寿司やぬくめ寿司などともいう。関西発祥で、山陰地方にも見られる郷土料理である。
 京都のおすし屋さんの蒸し寿司は冬の風物詩の一つである。11月下旬になると、季節限定で提供し始める。鍋のうえに蒸籠(せいろ)を積み上げ、ぽうぽうと湯気を立ちのぼらせながら蒸す様子が店先にみられ、寿司飯を蒸した独特の酸い香りがあちこちに漂う。蒸し上げたばかりをふぅふぅと吹きながら、熱々を食べるのがうまいのである。
 京都に暮らす人は蒸し寿司好きが本当に多い。ふつうの「ばら寿司」(ちらし寿司のこと)の残り物を食べるとき、それも蒸して温めてから食べるのが当たり前。蒸し寿司が寒いときの食事として、いかに愛好されてきたのかがよくわかる。


焼き穴子、タケノコやシイタケの煮物などを混ぜ合わせた寿司飯に錦糸卵をたっぷりかけた蒸し寿司(寿司・音羽、京都市中京区)


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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