こんにゃくのこと。材料の芋は霜が降りる時期が一番の収穫期で、地中から球茎(芋)を掘り起こして収穫する。元来、こんにゃくはこの生芋をすりつぶしてつくっていた。現代は製粉された芋の粉に凝固剤を加えて練り、それをゆでてつくっている。
 鍋(なべ)料理に欠かせない糸こんにゃくは、関東で食べると白く、白滝(しらたき)という上品な名前がある。関西では当たり前の黒い糸こんにゃくは、昔風にわざわざ海草を加え、色づけしている。鍋の種としてもいいが、水溶性食物繊維グルコマンナンに富む食材として生活習慣病の予防にも効果がある。
 12月8日は西京区嵐山の法輪寺などで、おこんにゃを使った針供養が行なわれる日である。伝承によると、12月8日は「お針」(針仕事)を休み、1年間に溜(た)まった折れ針をおこんにゃに刺し、神仏にお灯明(とうみょう)をあげて針をねぎらう日である。昔の京都では、針を刺したおこんにゃを素焼きの器に載せ、川に流していたという。土台におこんにゃを使う理由を聞いてみると、折れ針への思いやりだという。針は硬いものを縫って折れたわけだから、柔らかいものに刺して労をねぎらっているのだとか。
 現代は針供養が終わると、おこんにゃをいただく。食べ方に特別な決まりはない。こんにゃくは、ひと煮立ちさせて臭みをとり、だしで炊いたり、味噌を塗って田楽にしたり。炊くときは、まず角切りにし、鰹(かつお)だし、砂糖、酒、淡口(うすくち)しょうゆで味を付け、輪切りにした鷹(たか)の爪を鍋に入れて辛みを加える。炊き上がったら、盛りつけには削り節を振りかけていただくとおいしい。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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