毎年1月8日~12日に行なわれる京都ゑびす神社(京都市東山区)の祭礼を十日ゑびすといい、昔から「えべっさん」と呼ばれて親しまれている。初ゑびすとも呼び、家運や商売が栄えることを祈願するお祭りである。一般に、近畿以西のゑびす神社で、1月10日に催す祭礼であり、えびす宮総本社西宮神社(兵庫県西宮市)、今宮戎(いまみやえびす)神社(大阪市浪速区)などの十日ゑびすが有名である。行事の期間中、神社から授与される吉兆のお笹(ささ)を求め、境内は商売繁盛を願う参拝客でごった返している。
 本来、ゑびす講と称して毎年10月20日に行なわれる二十日(はつか)ゑびすと対をなす行事で、鎌倉時代の記録が残る、古くからの儀式である。その由来は、漁業神のゑびす大神が10月20日に海からおいでになり、1月10日に海にお帰りになるという伝承によるものとされている。
 参拝を終えた人が握りしめているお笹に取りつけられた、かわいらしい小判や金箱、福俵などの数が多ければ多いほど、新しい年は景気がよいといわれている。10月のゑびす講のときの行事食には「笹に小判」という、これまためでたい名前の料理がある。これは笹を九条葱(ねぎ)に、小判をはんぺいに見立て、はんぺいに汁をたっぷり含ませた羹(あつもの)である。京都でいうはんぺいとは、いわゆる「はんぺん」とは違い、やや硬めで少しもちもちとした食感があるものを区別して呼んでいる。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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