昨年暮れの総選挙で安倍晋三自民党総裁(当時)が唱えていた無制限の金融緩和や日銀法改正も視野に入れたデフレ脱却政策に市場が反応し、円安、株高の流れができたことをいう。
 週刊誌はこぞって「安倍バブル」大歓迎。なかでも『週刊現代』(1/19号)は「日経平均2万円もある」とぶちあげ、1/26号では「1ドル100円で大儲けする日本企業ベスト100」「この株でまず100万円儲けよう」と大はしゃぎである。他誌も同様で『週刊文春』(1/17号)は“伝説の投資家”と呼ばれるジム・ロジャーズ氏にこう言わせている。
 「今年の日経平均株価がどこまで上がるか、それはなんとも言えない。一年はとても長い期間だし、私は物事の推移を見守りながら投資の判断を下すからだ。よって、いまここで“予想”を伝えることにはあまり意味がない。一つだけ言えるのは、私はまだ保有している日本株を手放すつもりはないということだ。それが十年後になるのか、もっと早い時期になるのかはわからないが」
 『週刊新潮』(1/17号)でもエコノミストたちはこう言っている。
 「『この傾向が続けば、年内に為替は1ドル=95~100円まで円安が進み、平均株価は1万3000~1万3500円まで上がると予測できます』
 大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸(みつまる)氏はこう語るが、さらなる円安を予測する専門家もいる。
 『私は2007年当時の1ドル=120円まで、ほぼ一本調子で戻ると見ています』
 と言うのは、蔦峰義清(しまみね・よしきよ)・第一生命経済研究所首席エコノミストだ。
 『アベノミクスヘの期待以上にドル高要因も強まっているからです。アメリカは6年前に住宅バブルが崩壊しましたが、その借金の清算がようやく終わり、今年は痛手から脱却できそうなのです。米経済が回復すれば、為替も以前の状態に戻る。来年中には120円まで行くと思います』」
 まだ経済政策が動き出してもいないうちから反応する株価や為替は、アベノミクスがうまくいかないとわかればあっという間に弾ける。
 参議院選まで力ずくで景気がいいように見せかけたとしても、サラリーマンの給与に反映されるのはずっと後になる。参議院選後に経済対策が破綻すれば、給与は上がらず、物価や消費税アップで家計はさらに苦しくなる。
 いまメディアに求められるのは安倍バブルに浮かれることではなく、アベノミクスの内容を精査し、本当に景気浮揚、雇用拡大、貧困層の縮小に寄与するかどうかを監視することであることはいうまでもない。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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