1月16日にアルジェリア南東部イナメナスの天然ガス生産施設で、イスラム武装集団が外国人132人を人質にとった事件が起きた。
 アルジェリア政府は武装集団の要求に耳を貸さず、軍特殊部隊を出動させてせん滅したが、その際人質37名も死亡した。現地で天然ガスプラント建設に関わっていた「日揮(にっき)」の邦人社員・関係者10人も犠牲となる痛ましい結末だった。
 『週刊現代』(2/9号、以下『現代』)によれば、「日揮」はすべての業務がBtoB(企業間取引)ということもあり日本での知名度はそう高くはないが、海外では「JGC(ジャパン・ガソリン・カンパニー:日揮の英語名)」として知られ、年間5600億円を売上げ、世界を股にかける社員数は2200人という超優良企業である。
 アルジェリアでの生活は居住区であるキャンプとプラントとの往復の単調な毎日で、軍の護衛付き送迎バスで守られて移動している。キャンプは鉄格子で囲われた約500メートル四方で、アルジェリア兵士が警備にあたっていると『現代』で「日揮」の社員が語っている。
 だが、どんなに軍に守られていようと、テロは防げないことが証明されてしまった。
 亡くなった中には「日揮」の最高顧問(66)もいたが、死亡が確認されたのは一番最後だった。『女性自身』(2/12号)によれば「身元確認の決め手になったのは、結婚指輪の裏に刻まれたイニシャルと数字だった」というから、遺体の損傷が激しかったのであろう。
 派遣社員として現地に入り現場監督をしていて被害にあった人(44)の母親は、事件当初「日揮」から「息子さんは安全です」と説明を受けていたのに、翌日一転したと怒りを表す。その後「日揮」の人間が突然来て、DNA鑑定のためだと「ヒゲそりと歯ブラシとベッド周りの髪の毛」を持って行ったという。父親もこう憤る。
 「これからは危険地帯には自衛隊が一緒に入らないと行けないという法律をつくると言ってましたね。けど、もっと早くつくるべきでした! やることが遅すぎる」
 現地で事業担当の要職にあった被害者(59)は東日本大震災で津波が襲った宮城県南三陸町の出身で、母親は今も仮設住宅で暮らしている。その母親を気遣い何度もアルジェリアから電話を入れていた。母親は「本当に悔しい。私のほうが代わってやりたいくらい悔しいよ」と嘆いているという。
 今回の事件では「日揮」側が発表する前に、一部新聞、テレビが被害者の実名を報道してしまったことで、メディアスクラム(集団的過熱取材)や報道倫理問題もクローズアップされた。
 『現代』で「日揮」の遠藤毅(たけし)広報・IR部長は「社員一人一人を大切にしながら、海外の資源国に貢献していくにはどうしたらいいのか、今回の件は立ち止まって考える機会になった」と述べている。
 危険地域の赴任者に支給される駐在手当は月に約50万円程だそうである。アルジェリアを中心とした北アフリカでは今後もこのようなテロが起きる可能性が高いが、マリに軍事介入したフランスも狙われるかもしれないといわれている。
 高成長しているアフリカには多くの日本の大手企業が進出している。だが、彼の地はテロ多発地域でもあるから、企業はこの事件を機に「テロなどから社員の命をどう守るのか」をより真剣に考えなければいけないこと、いうまでもない。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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