戦後、日本では官民一体で産業を育成するために、市場参入に許認可制をとったり、商品の規格を統一するなどさまざまな規制をかけてきた。だが、こうした方法は「護送船団方式」などと揶揄(やゆ)され、アメリカをはじめとする西欧諸国から批判されるようになる。
 日本国内の企業からも、国による規制の緩和・撤廃が求められるようになり、1980年以降、徐々に許認可制の整理・合理化などが行なわれるようになってきた。
 規制緩和は、国によって制限されている規制を緩めたり撤廃したりして、企業が自由な経済活動を行なえるようにすることだ。自由な発想のもと、新しいサービスや商品が生まれたり、新しい雇用を生むことなどが期待される。また、新規企業の市場参入により競争原理が働き、商品の価格が安くなるなど消費者にとってプラスの面もある。
 一方で、競争が激化すると、企業は利益を追求するためにコストカットに走り出す。国の規制があれば一定の制限がかけられるが、「規制緩和」された社会では、企業のやりたい放題が許されるようになる。象徴的な例が労働者派遣法の改正だ。以前は、労働者派遣については業種を限定するなどの規制がかけられていたが、経済界の求めに応じて規制緩和した結果、いまや全労働者の4割が非正規雇用という状態だ。
 派遣労働は、企業にとっては労働者を便利に使える雇用の調整弁だが、労働者はいつ職を失うかわからず、収入面でも精神的にも不安定な状態に置かれることになる。その結果が、今問題となっている貧困や格差社会だ。
 人々の暮らしを守るためには一定の規制は必要で、それを行なうことが国家の役割でもある。ところが、経済成長や景気回復のためなら、労働者の権利や自然環境の犠牲は致し方ないと考える人は少なからず存在する。とくに、2012年12月の衆院選で「強い経済の再生」を唱えた安倍・自民党が政権に復活したことで、景気回復の大義名分のもと、これまで守られていた医療や介護、農業といった人の暮らしの根幹にかかわる分野への規制緩和まで求める声が強まっている。
 だが、医療や農業分野を不用意に規制緩和すると、命の安全が損なわれる危険がある。時代に合っていなかったり、手続きが煩雑な規制などは改善すべきだが、なくしてはいけない規制もある。行き過ぎた規制緩和は、特定の人々の利益を増やすだけで、格差の拡大になる可能性も高いため、十分に見極める必要がある。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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