ぶぶづけといえば、ご飯に熱い湯をかけたお茶漬けのことであり、落語の演目「京の茶漬け」ですっかり有名になった、長居の客に帰宅を促す暗示のようなものでもある。京都だけでなく、関西では広くぶぶづけといったり、おぶづけと呼んだりしている。
 「ぶぶ」ということばは、お茶漬けの「お茶」の代わりで、単にお湯を意味する幼児語「おぶ」の方言だと思い込んでいた。けれども、京都のぶぶづけとは、実はそういう解釈とは違うらしい。
 ある料理店の主人から聞いた話であるが、「ぶぶづけ=お茶漬け」と簡単に理解しては困るという。「ぶぶ」というのは、「おぶ」とは違い、お茶漬けを冷ますため、口でふぅ~ふぅ~と吹いているときの音から派生した擬音語なのだという。だから、ぶぶづけといったら、冷まさなければ食べられないほど、熱々のお茶やお湯をかけたお茶漬けをさしているというのである。逆に「おぶづけ」の場合は「おぶぅ」ともいい、飲みごろの状態のお茶やお湯を意味することばなので、ぶぶづけよりぬるめのお茶漬けになるという。
 寒い季節のお茶漬けなら、熱々を冷ましながら食べたいものである。塩昆布やつくだ煮、数々の漬け物、魚介の甘煮やだし巻きなどのおばんざいと組み合わせたり……。京都のぶぶづけは食べ方がとても豊富である。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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