夏の参院選に向けて、自民党は憲法改正を公約の柱に掲げている。

 その自民党が昨年4月に発表した憲法改正草案は、基本的人権を踏みにじる非常に危険な内容になっているのだが、国民にはその実態が知らされていない。

 現行の日本国憲法は、「基本的人権の尊重」「国民主権(主権在民)」「平和主義(戦争放棄)」を三大原則として、1947(昭和22)年5月3日に施行された。前文では、先の戦争での過ちを反省し二度と戦争をしないことを「決意」しており、国民主権のもとに、全世界の人々が平和に暮らす権利を確認した崇高な理念の憲法となっている。

 ところが、自民党草案はこの三大原則をことごとく否定し、まるで日本を戦争に導くことになった戦前の大日本帝国憲法と見まがうほどの内容になっている。

 まず、第一条では天皇を「象徴」から「元首」へと改め、国民主権の原理を否定している。本来、憲法は国家が暴走しないように権力に歯止めをかけるはずのものなのに、自民党草案では三権分立を無視して、権力を国会に集中させ、彼らがやりたい放題できる内容になっている。実現すれば言論の自由は奪われ、最低限の生活も保障されなくなる可能性が高い。

 最大の問題点は、戦争放棄を約束した第9条の第2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を削除したことだ。第2項がなくなると、紛争介入などを理由とした外国への侵略が可能となり、結果的に戦争ができるようになってしまう。

 また、基本的人権を保障した第11条も、現行法では、要約すると「すべての国民に基本的人権があり、妨げられないものとして与えられる」となっている。しかし、自民党案では、たんに基本的人権とはどんなものかを規定しているだけで、緊急事態には国民の人権は保障しないことも明記しているのだ。

 そのほかにも、勲章授与者への特権付与、徴兵制の復活、生存権への国の責任放棄につながりかねないものもあり、自民党案の憲法改悪はあげだしたらきりがない。

 そして、改憲を押し進める第一歩として、最初に行なおうとしているのが第96条の改正だ。現行法では、憲法を改正するには衆参両院の3分の2以上の賛成を得たうえで、国民投票が行なわれることになっている。この規定を、改憲しやすいように過半数の賛成で行なえるようにハードルを引き下げることで、次々と自民党草案を通そうとしているのだ。

 改憲を求める理由として、「時代に合わない」「現実に合っていない」という人がいる。しかし、もしも現実が憲法に合っていないのなら、理想に近づくような努力をするのが筋である。その努力をせず、低きに流れるような改憲論は人類としての向上を諦める愚かな行為だ。

 日本の改憲の動きは、平和を求める全世界の人々が固唾(かたず)をのんで見守っている。「9条」を有する憲法を手放すことは、現在の日本の問題だけではなく、後世にも世界にも大きな禍根を残すことになる。

 これからの世界がどのようになるのか。それは主権者としての私たちが、どのようにふるまうかにかかっている。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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