グローバル企業ユニクロが批判にさらされている。ブラック企業(入社を勧められない労働搾取企業)ではないかというのである。ブラック企業は英語圏ではSweatshop、中国語圏では血汗工場と呼ばれるとWikipediaに書いてある。“血汗”って言い方が怖いですね。

 理由は、入社した新卒新入社員の「3年内離職率」が53%にもなるからである。大卒者の平均離職率は3割弱といわれるからかなり高い。

 『週刊現代』(4/13号、以下『現代』)で話している、2011年入社で翌年退社したA君によれば、内定後の研修でホテルに2~3日軟禁状態にされ、23か条に及ぶ長い社訓を丸暗記させられる。最終テストでは一字一句間違えてはいけないそうである。

 入社してからがさらにきつい。店長になるための昇進試験を受けさせられるのだが、そのために会社が作っているマニュアルを覚える。門外不出のため、店を閉めてから勉強を始めるから深夜に及ぶこともあった。

 A君は見事一発で店長試験に受かり、わずか半年で店長になる。しかし試験に受かっていない年上の部下と、スーパーバイザーと呼ばれる上司との板挟みに悩み、売上げ目標の達成が至上命令となっていて、半年ぐらいで『うつ病』と診断され、結局退職する。

 仕事量は多く、新入社員は残業代が出るが、店長は管理職扱いだから、朝から夜中まで働いても残業代は出ない。

 批判が広がることを恐れたのであろう、柳井正(やない・ただし)社長は朝日新聞などのインタビューに答えてブラック企業であることを否定したが、そこで社員の賃金を世界で統一すると発言して、また波紋を呼んでしまった。

 『週刊ポスト』(5/17号、以下『ポスト』)によれば、世界統一賃金とはこうである。

 「現在、ユニクロの『グローバル総合職』社員は世界に約5000人いる。(中略)執行役員や上級幹部ら合わせて51人の上位7段階はすでに世界で『完全同一賃金』になっている。完全同一賃金とは、たとえば、日本円で年収5000万円のグレードに属する海外採用社員は、通貨や物価が違っても、その額に相当する年収を受け取ることができるというものだ。それをさらに下位のグレードにも広げていこうというのが、今回のユニクロの構想である」

 この戦略を信州大学経済学部真壁昭夫教授は、こう分析、評価している。

 「ユニクロの試みが成功すれば、現地国での有能な人材の発掘や、すでにいる人材の底上げ効果にもつながる。組織内の競争も激化し、生産性が上がって、企業収益にも貢献するはずです」(『ポスト』)

 だがこうしたやり方が、日本的雇用形態を崩してしまうのではないかという心配はある。

 『現代』(5/11・18号)で京都大学竹内洋(よう)名誉教授はユニクロ商法をこう難じている。

 「残念ながら、柳井さんの経営理念には、歴史に対する不勉強、文化や社会に対する無理解を感じざるを得ません。職位が下の社員に成果を求め、それがかなわないなら低賃金に甘んじろというやり方は、労働者を苦しめた初期の資本主義時代の考え方ですよ。(中略)企業が儲かるのは大切なことです。しかし、そのために『Grow or Die』が必要ですか? 多くの精神疾患者を出し、まるで産業廃棄物を捨てるようにヒトを吐き出していくやり方が、グローバル企業だから仕方がないと、許されることでしょうか。企業は公器。品格のある成長を、ユニクロには求めたいと思います」

 日本有数の超成長企業だからこその賛否両論である。有名企業に入れればいいと、その企業が何を求めているのかを考えずに入社してしまう新入社員側にも問題はある。だが、早すぎる管理職登用は、安く社員をこき使おうという会社の意志だと思われても仕方あるまい。

 パナソニックの創業者松下幸之助氏は「企業は人なり」といった。このように離職率が高い職場で人が育つのだろうか。柳井社長が一番心配しているはずだと、私は思うのだが。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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