生利節(なまりぶし)のことで、関西では「なまぶし」という。節取りした鰹(かつお)を煮熟(しゃじゅく)して冷まし、骨を除いた後、片身を背肉側と腹肉側に分け、一度だけ焙乾(あぶりから)している。水分を半分ほど抜いた半生状態で、鰹の旨味(うまみ)が凝縮している。「なまり」と呼ばれる身がやや白っぽいものは、煮熟の後、焙らないままのものをいう。

 若葉の季節、旬を迎えた生節は、おばんざいの主役である。えぐみのある蕗(ふき)やうどをはじめ、お焼き(焼き豆腐)などに生姜(しょうが)を加え、甘辛く炊き合わせたおばんざいは、ごはんやお酒によく合い、冷めてもよしという、便利でうまい初夏ならではの味である。魚好きならば、背肉よりも味が濃い腹肉側を選ぶとよい。

 京都の店には「とんぼ生節」という種類も一緒に置いているところが多い。「とんぼ」というのは鬢長鮪(びんちょうまぐろ)の通称で、鰹の生節よりも生臭みが少ないので、あっさりと薄味に仕立てるときには、とんぼ生節を好む人が多い。


 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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