インターネットの普及によって、いまや検索サイトにキーワードを入力するだけで、さまざまな情報が簡単に手に入る。だが、中には本人が公開を望まない個人のプライバシー、過去の経歴なども含まれている。

 本人は「忘れたい」と思っていることでも、インターネットは忘れてくれず、検索するたびに人の目に触れてしまう。一度、ネットに出た情報は、それが当事者にとって好ましくないものでも、どこまでも拡散する可能性がある。

 こうしたネット上に拡散した個人情報を、本人が削除要求できるのが「忘れられる権利」だ。

 個人情報の保護に先進的な取り組みをしているEUの欧州委員会が、2012年1月に域内の共通規則として加盟各国に提案。「EU一般データ保護規則提案」の中で規定したもので、表現の自由の侵害に当たらないなど一定の要件を満たせば、データ管理者はその個人情報を削除したり、拡散の防止に努めなければならないというものだ。

 世界の流れを受け、日本でも「忘れられる権利」が求められるようになっている。日本で、ネットから個人情報を削除してもらうには、裁判所に削除仮処分を出してもらうか、テレコムサービス協会の「送信防止措置依頼書」を使うといった方法がある。だが、削除しないほうが公共の利益に適う情報もあり、削除には正当な理由が求められる。表現の自由を侵すと判断されれば、削除できないこともある。情報提供元(プロバイダー)が海外事業者の場合は日本の法律が通用しなかったり、そもそも連絡先がわからない事業者もあり、ネット上から個人情報を消し去るのは容易なことではない。

 「忘れられる権利」を絵に描いた餅にしないためにも、インターネット社会に対応できる法整備が必要になってきている。


 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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