粳(うるち)と餅米(もちごめ)を混ぜて炊いたものを軽く搗(つ)き、それを丸く握ってから表面に餡(あん)などをまぶした食べものである。萩の餅、牡丹餅(ぼたもち)などともいう。

 「御萩」は「萩の餅」(萩の花)の女房詞(ことば)で、もともと宮中で食べものや衣服などに用いた隠語のひとつである。今日では、春分の日と秋分の日の彼岸に付きものの食べものとなっているが、古くは、春の豊穣祈願と秋の収穫への感謝を込めた神への供物であった。それが、時期的に重なる彼岸の食べものとして定着していったそうである。特に秋分のころは、小豆も米も旬を迎える。その年に採れた新豆を味わえるこの時期には、外側の皮まで柔らかく炊いて食べることができる。この小豆を散らした状態を萩の花が咲き乱れる様子に重ね合わせ、この名が付けられたのである。そのため、粒餡(つぶあん)のものを御萩、漉し餡(こしあん)のものを牡丹餅として言い分ける場合もある。

 京都では昔ながら粒餡に漉し餡、胡麻(ごま)をまぶした御萩が定着しているが、小振りで数種の味の違う御萩にも人気があり、粒餡、漉し餡、きな粉、青海苔(のり)、氷餅をまぶした御萩が流行していたと聞いたことがある。最近でも、小豆、白小豆、青のり、黒ごま、青梅、古代米、梅、きな粉という、8種の色とりどりのかわいらしい小多福(おたふく、東山区祇園)の御萩が人気である。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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