東日本大震災に伴う、東京電力福島第1原子力発電所の事故から2年半。この秋で3回目の米の収穫となる。

 震災当初、福島や北関東の大地には放射能が降り注ぎ、その田畑で育てられた農産物についても深刻な汚染が懸念された。だが、茨城大学の中島紀一(きいち)名誉教授らの分析によって、2011年4月以降に種を播いて育てられた農産物からは、放射性物質がわずかしか検出されないことが明らかになっている。

 これは特別な栽培方法、一部の田畑に見られることではなく、福島の農産物全体にいえることだった。チェルノブイリ原発事故で農産物への強い汚染があったことに比して、この状況を一部の研究者は「福島の奇跡」と呼ぶようになった。

 奇跡を起こしたのは、福島の土だ。有機物が多くカリウムも多く含んでいるため、セシウムを吸着して作物への移行を防いだのだ。そして、その土の力を引き出したのが、農業者たちの耕す力だという。

 原発事故以降、福島県では収穫されたすべての米について、全袋検査という気の遠くなる測定を行なっている。福島県における平成24年産の全袋検査結果では、1003万4956袋の中で、検出下限値以下(1㎏あたり25ベクレル未満)は1001万2899袋。25~50ベクレルは1万9928袋、51~75ベクレルは1669袋、75~100ベクレルは389袋、基準値の100ベクレルを超過した放射性セシウムを含むものは71袋だった(福島県・農林水産省、平成25年1月検査結果報告)。

 米以外にも、土で育てる野菜類の汚染は少なく、汚染されているものは市場には出回らないようになっている。

 こうした事実が知らされないまま、福島の農産物は敬遠される傾向があるようだ。もちろん低い放射線量だから安全とは言い切ることはできないし、汚染の可能性のあるものは食べたくないという人もいるだろう。

 だが、食品の汚染に関わる問題は放射能だけではない。健康を考えるうえでは、農薬や保存料、遺伝子組み換え食品なども考えなければいけない問題だ。こうした食品汚染の問題をトータルでとらえたうえで、福島の農産物とどのように付き合っていくのか。じっくりと考える秋にしたい。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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