10月8日、東京・三鷹市で私立高校3年生でタレントの鈴木沙彩(さあや)さん(18)が、かつての交際相手・池永チャールストーマス容疑者(21)に殺された事件。池永容疑者は京都出身、フィリピン人の母親と日本人の父親を持つハーフで、日本国籍を持っている。

 『週刊文春』(10月24日号、以下『文春』)によれば、二人の出会いは2011年の秋。池永は立命館大学の学生だとプロフィールを偽り、フェイスブックで沙彩さんと知り合い、遠距離恋愛が始まった。

 沙彩さんと池永の交際は1年弱。彼女から別れを切り出したが、池永のほうは未練たっぷりで、よりを戻したいと彼女に付きまとっていた。

 今年6月、沙彩さんの父親が池永に、娘に連絡をしないでくれと通告しているが、上京してきた池永は沙彩さんへのストーカー行為をやめなかった。そのため8日の朝、両親と一緒に三鷹署へ相談に行っている。

 しかし、池永容疑者はその日の昼頃、鍵のかかっていなかった2階の窓から鈴木さん宅に侵入し、1階にある沙彩さんの部屋のクローゼットの中で身を潜めていたのである。

 「その暗闇の中からスマートフォンを操作し、A君(池永の友人=筆者注)らに無料通話アプリ『LINE』を通じて、次々と唐突な文言を送り始める。
 〈ふんぎりつかんからかなりストーカーじみたことをしてる〉(中略)
 その後も、立て続けに池永からのメッセージがA君のスマホに表示される。
 〈元カノの家の押し入れにて〉
 〈誰がいるかわからないんだ〉
 〈普通にでようども鉢合わせしたら終わってまう〉(中略)
 十四時三十分。池永からのメッセージは次の一言で途切れた。
 〈詰みだわ〉
 約二時間後、沙彩さんが学校から帰宅。前述の通り、沙彩さんはこの日朝、両親と三鷹警察署を訪れ、池永によるストーカー被害を相談したばかりで、彼女が三鷹署員から帰宅確認の連絡を受けたのが十六時五十一分。約二分後に通話が終わると、クローゼットを飛び出した池永は、刃体約十三センチのペティナイフを手に、制服姿の沙彩さんを強襲したのだった」(『文春』)

 逮捕された池永容疑者は取り調べに対し「交際をめぐり恨んでいた。殺すつもりで刺した」と供述しているという。

 彼は沙彩さんを殺したばかりではなく、さらに卑劣なことをしていたのである。『週刊ポスト』(10月25日号、以下『ポスト』)は、事件の6日前、インターネット上に彼女の写真が何枚もアップされていたと報じている。

 「沙彩さんの自宅の部屋のなかで、ベッドの上や大きな鏡の前で撮られていた。背景に写っている壁には、画家である母親の作と思しき絵が飾られている。沙彩さんは、笑顔や、すましたような表情、時には恥ずかしそうな表情を浮かべて写っていた」

 さらにその2日後、沙彩さんが映っている動画も投稿されている。殺されたばかりではなく、写真や動画まで晒された彼女は“2度殺された”ことになるのではないか。

 『ポスト』によれば、振られた腹いせに元恋人の裸の写真や映像をネットに投稿する行為は「復讐ポルノ(リベンジポルノ)」といわれ、世界的な問題になっているという。この10月、米カリフォルニア州議会では、嫌がらせを意図してヌード写真をネットに流通させた者には、最大で6か月の禁固か1000ドルの罰金を科す法案を成立させた。

 ストーカー法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は2000年に作られた。『遺言─桶川ストーカー事件の深層』(新潮社)にくわしいが、女子大生が付きまとわれていた男に殺される事件が起き、当時『フォーカス』の清水潔(きよし)記者が執念の取材で犯人を突き止め、事前に被害者が告訴していたことを隠そうとした埼玉県警の不祥事まで暴いたのがきっかけである。

 しかし、その後もストーカー殺人は後を絶たない。法を生かす警察側の積極的な運用が必要な時期だと思う。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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