品種改良によって、特定の栄養素を増やしたり、従来の風味を変化させた、いわゆる「機能性野菜」がブームとなっている。

 たとえば、リコピンが通常の1.5倍含まれたトマト、抗酸化作用を高めたブロッコリーのほか、子どもも食べやすいように苦みを抑えたピーマンなど。価格は通常よりも高めだが、健康志向の人々に受け入れられて、順調に売り上げを伸ばしているようだ。

 厚生労働省は、1日に350gの野菜を摂ることを勧めているが、2011年の「国民健康・栄養調査」によると、実際の摂取量は277g。とくに20~30代の野菜の摂取量が少なく、問題になっている。機能性野菜は少量でも必要な栄養価が摂れる可能性もあり、野菜不足の現代人の食生活を救うと期待する声もある。

 だが、このように品種改良された野菜の多くは、「F1」と呼ばれる一代交配種だ。機能性野菜に限ったことではないが、F1種は、流通に耐えうるように皮を厚くしたり、味を甘くしたり、形を揃えたりなど、人間社会で都合のよい野菜ができるように交配している。

 思い通りの野菜を作るためには、雄しべを人為的に取り除いて、別品種の花粉をつける必要があるが、この作業は非常に手間がかかる。そこで、手間を省くために、近年増えている交配の方法の一つが「雄性不稔(ゆうせいふねん)」によるものだ。

 雄性不稔とは、もともと野菜などの雄しべに異常があって花粉を作れないなど機能不全を意味する。それをあえて利用して、別の品種の花粉を交配して人間が思い通りの野菜を作っている。作業効率は格段に上がるが、心配されているのが遺伝子の異常だ。

 遺伝子に異常のあるものは淘汰されていくのが自然の摂理だ。しかし、それをあえて利用することは、遺伝子異常のある作物を大量生産し続けることにならないのか。

 たとえ品種改良によって栄養価が高まったとしても、遺伝子異常の可能性のある野菜を摂り続けることは、人の身体に影響を与える危険はないのかといった疑問も湧く。

 野菜の品種改良で行なわれている現実を知ると、機能性野菜のブームの先にある未来に不安を感じずにはいられない。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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