『週刊ポスト』(12/20・27号、以下『ポスト』)によれば、テレビの視聴率が軒並み低下し、CM料金も大幅ディスカウントを余儀なくされているという。

 『ポスト』独自の調査によれば、単独司会者の長期間生放送のギネス記録を更新し、最高視聴率27%台を記録した『笑っていいとも!』(フジテレビ系)はこの10年で11.1%から6.0%に落ち、17年間続いてきたTBS系の『はなまるマーケット』も6.0%から3.4%にほぼ半減。

 TBS系の『さんまのSUPERからくりTV』も最盛期には20%近い視聴率を誇っていたのに、いまは10%を割り込んでいる。『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)も10年前は19.9%あったものが8.4%という具合に、かつてのテレビの主役たちの番組が低視聴率で喘いでいるのである。

 視聴率低下は大御所たちの高齢化や番組のマンネリ化が原因の一つではあるが、より深刻なのは「日本人がテレビを見なくなった」(『ポスト』)ことであろう。「総世帯視聴率」が、ゴールデンの時間帯で見ると、97年に71.2%あったものが63.5%にまで大きく下がってきているのだ。

 BSやWOWOWなど選択肢が格段に増えたことが地上波を見る人間を減らしていることも事実だが、テレビという媒体そのものが、ほかのコンテンツに浸食されてきていることが大きいと、あるテレビ局員がため息をつきながらこう語る。

 「子供がテレビに向かうのは録画したアニメを見たりゲームをする時だけ。妻ももっぱら映画やお気に入りの歌手のライブをDVDで見てばかり。テレビ局員の家なのに、誰も今まさに放送されているテレビ番組を見てくれない」

 さらにインターネット機能を搭載した「スマートテレビ」の普及で、大画面テレビはネットの動画やオンデマンド放送を楽しむためのものになりつつある。

 『ポスト』は『8時だョ!全員集合』『オレたちひょうきん族』『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』などのように、低俗と批判されながらも、多くの視聴者がテレビ局を支持し、その応援の声が制作者の熱意を支える時代があったが、今はPTAや一般視聴者からのクレームにテレビ局側が敏感に反応して自主規制したり、BPO(放送倫理・番組向上機構)にチェックされるために制作現場が萎縮しているから、昔のように野放図な番組づくりができないことも視聴率低下の要因だと指摘している。

 私は毎朝食後、テレビ欄を見て録画する番組のチェックを日課にしているが、その多くはBSで、地上波で録画しようと思う番組はほとんどない。絶景を映しているのに、お笑いタレントのしょうもないバカ発言を挿入させる地上波より、NHK-BSの『世界ふれあい街歩き』のほうが景色の楽しさを満喫できる。

 同局でやっている俳優・火野正平が自転車で全国を回るというだけの『にっぽん縦断 こころ旅』やBS-TBSの『吉田類の酒場放浪記』はお手軽なつくりだが、地上波では発想できない秀逸な番組である。

 昔、TBSのテレビマン3人が書いた『お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か』(朝日文庫)という名著がある。だが録画やオンデマンド視聴が主流になってくれば、テレビは「現在」さえも伝えられなくなってくるのかもしれない。

 もう一つ、私がテレビに危惧を抱いているのは、報道番組がほとんどなくなってきていることである。先日成立した特定秘密保護法についても、明らかな危惧を表明したのは、私が知る限りテレビ朝日の『報道ステーション』とTBSの『報道特集』などごく少数であった。なかでもNHKの報道姿勢は、この法案の持つ危険性を掘り下げず、まるで他人事のような報じ方であった。

 民放は総務省に許認可権を握られ、NHKは予算を国会で承認してもらわなければならないために「お上」にからきしだらしがない。だが、それでも自局で報道番組を持っていることで、権力側への「威嚇」にはなるはずだ。

 それすら捨て去った結果、NHKの会長人事に安倍晋三総理が介入し、中立報道を心がけていた松本正之会長が辞任に追い込まれ、安倍総理の意に沿う会長が選ばれることになってしまった。

 時の権力が自分の意のままに操るため、テレビ局の人事に介入するなど許すことのできない暴挙だが、テレビ内部からこうしたことへの批判の声は上がらない。

 楽しくもなく報道機関としての役割も果たさないテレビから視聴者が離れていくのは、当然の帰結なのである。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は『週刊ポスト』が休み(先週合併号)だし、『週刊文春』、『週刊新潮』ともに見るべきものなし。『週刊朝日』さらになし。そこで今週に限り孤軍奮闘している『週刊現代』(12/28号)の記事3本を取り上げる。

「安倍総理、気分はもう戦争」
 赤木智弘氏の「『丸山眞男』をひっぱたきたい31歳フリーター。希望は、戦争。」(『論座』07/1月号)からのパクリのようなタイトルだが、なかなか鋭い安倍批判になっている。

「金正恩 頭のネジがぶっ飛んだ」
 そうとしか思えない、今回の粛正騒動である。

「国民的大議論 原発のゴミ 東京に『処分場』を」
 かつて広瀬隆氏に『東京に原発を! 』(集英社文庫)というのがあったが、安倍首相は福島の原発20キロ圏内に処分場(中間貯蔵施設)をつくろうと画策している。それなら東京につくったらどうか。永田町周辺はどうかね、安倍さん?

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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