大つごもりとは、12月31日の大晦日(おおみそか)のことである。京都には「おおつもごり」と、覚え違いをしているような人がいるのだが、実はれっきとした京ことばである。

 1か月の末日を意味する晦日(みそか)のことを、陰暦では月がなくなるという意味から「月隠」(つきごもり)と呼ぶ。この音が転じて「つごもり」になったと考えられており、1年間と1か月の最後の日が重なる師走は、「大」をつけるわけである。月の満ち欠けによる陰暦では、1か月とは30日間であったので、「みそか」という音は「三十日」と読み方として重なる。しかし、太陽暦では「三十一日」でも「みそか」になってしまうため、なんともわかりにくく感じられることだろう。

 さて、大つごもりは大切な来客を迎える日である。まず、来たるべき新年の豊作の守り神、歳神を迎え入れる。歳神は、祖先の霊ともいわれており、燈明をともし、道を照らして祖先の霊を招き入れるのである。大つごもりの過ごし方とは、本来はそのような祖先の霊魂を慰めながら過ごすことであったと考えられ、大掃除や正月料理の準備は、そのための準備であったともいえるだろう。

 京都では、走り(台所の水回り)や手洗いなどに「星付きさん」という鏡餅風のとても小さなお餅を供え、水へ感謝する風習を守っている家もある。

 以前、大つごもりと元旦の境は、明け方近い「寅の刻」(午前4時ごろ)であると聞いたことがある。家々では、明け方まで夜更かしをして祖先の霊をなぐさめながら過ごしている。そして、寅の刻になると、霊魂は新年の到来とともに、もとの世界へ戻っていくのである。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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