プロ野球選手。25歳。今季楽天イーグルスから大リーグ・ニューヨーク・ヤンキースへ移籍。7年契約で年棒総額は1億5500万ドル(約161億200万円)という金額が大きな話題を呼んでいる。

 ちなみに松坂大輔が6年契約で5200万ドル、ダルビッシュ(以下ダル)が6年契約で6000万ドル。1年目に松坂は15勝、ダルは16勝している。

 背番号も「19」に決まりエースとして期待されている田中だが、ヤンキースという超人気球団に入ることで、相当なプレッシャーがかかることも事実である。私も何度かニューヨークで、ヤンキースの試合をbarのテレビで見ながら熱狂的に応援するファンの姿を見ているが、これは9年連続日本一になったときの巨人ファンを彷彿とさせる。

 では、田中はどれぐらいの活躍が期待できるのだろうか。松坂、ダルと比較してみよう。松坂は西武に8年在籍、ダルは田中と同じ7年在籍してから大リーグへ移っている。

 通算成績は松坂108勝60敗、ダルが93勝38敗、田中が99勝35敗。防御率は松坂が2.95、ダルが1.99で田中は2.30。自責点は松坂が459、ダルが281、田中は336。三振奪取は松坂が1355、ダルが1250、田中が1238。

 被本塁打は松坂112、ダルが58、田中が66。完封勝利は3人とも同じ18である。

 移籍先のチーム力の違いを考慮に入れなければ、数字から見えてくるのは、田中の力は松坂よりも上だが、ダル(防御率1点台というのはすごい)よりも下ということであろうか。

 だが田中には強い味方がいる。それは年上妻・里田まい(29)の存在である。里田は芸能界で「おバカタレント」として人気者だったが、2012年に結婚して内助の功に徹し、中でも料理はプロ並みだという。

 『週刊朝日』(2/7号、以下『朝日』)はこう書いている。

 「一昨年にジュニア・アスリートフードマイスターの資格を取得している。交際前は米のとぎ方もわからなかったというが、今ではアスリートの身体づくりに効果的な鶏肉料理のレパートリーをたくさん持っている」

 夫のメジャー移籍を見越して英語も習っていたというから、おバカなどではない。食事といえばイチローの年上妻のつくるカレーが有名だが、里田のブログを読むと、料理のコーナーには「トマトたっぷりロールキャベツ」「色々キノコとほうれん草のサラダ」「豆腐ひじきハンバーグ」「南瓜の煮物」など野菜中心のメニューが並んでいる。同じ年上妻だが松坂のように「ステーキやハンバーガーが大好きで体重が増え、身体の切れがなくなった」(『朝日』)という心配はないようである。

 だが、田中にとって最大の敵は「25歳で収入100億円」という莫大なカネの魔力かもしれないと『週刊現代』(1/25・2/1号、以下『現代』)が心配している。中でも元ボストン・レッドソックス投手で216勝を挙げたカート・シリング氏(47)の話は読ませる。

 「初めて10ミリオン(約10億円)を超える小切手を貰ったときのことは、いまでもよく覚えているよ。銀行に行き、全て20ドル紙幣に替えてもらったんだ。それをホテルに持ち帰り、部屋中に並べた。並べているあいだに、一生で使い切るには無理な金額だと感じたよ。同時に、『この金額が向こう何年も貰える。それなら俺の人生は何をしても大丈夫だ』とも思った。あのとき、僕の感覚はおかしくなったんだろうね」

 彼は約50ミリオンを投資してゲーム会社を作ったが、ビジネスの世界では1Aにも及ばず、たった2年で150ミリオンの負債を負ってしまったという。

 「いま振り返れば大人しく貯金をすれば良かったとわかるが、当時は一切そんな気持ちは持てなかった。(中略)あの感覚は、カネを持った者にしかわからないよ。田中が自分と同じ道を歩まないことを願うばかりだ」(シリング氏)

 彼のようにカネのために人生を狂わせたアスリートは枚挙に暇がない。私のように“由緒正しい貧乏人”が夢にさえ見たこともない金額を手にする田中に、『現代』で恩師の駒大苫小牧高校元監督・香田誉士史(よしふみ)氏が語っている言葉を読んでほしいものだ。

 「アメリカにわたってから、どんな生活が待っているのか。道を踏み外さず、彼にとって幸せな人生を歩んでいってほしいと願うばかりです」


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週も都知事選の記事になるがお許しください。舛添要一候補にリードを許している細川護煕候補への熱い想いを記事にしている3本を選んでみた。

第1位 「選挙の魔術師・小泉純一郎が仕掛ける『大逆転の秘策』」(『週刊ポスト』2/7号)
 細川支持を鮮明にしている『ポスト』が描く、劣勢細川・小泉連合の大逆転のシナリオだが、果たしてそううまくいきますか?

第2位 「細川・小泉連合の誤算と逆転の秘策」(『週刊朝日』2/7号) 
 これも同じような内容。

第3位 「衝撃の生データ 舛添が圧倒的勝利 これでいいのか!?」(『週刊現代』2/8号)
 原発推進、女性問題ありの舛添氏を都知事にしていいのか? 都民に「覚悟」を迫っている。

 私はこう考える。仮に舛添氏が勝ったとしても、脱原発を主張する細川氏と宇都宮健児氏の得票数を足して1票でも舛添氏を上回ったら、都民の“意思”は脱原発なのだから、安倍首相は再稼働を中止すべきだと思うが、いかがだろう。
 東京都民の“良識”が問われる選挙であることは間違いない。


 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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