若年男子のズボン(※註:ファッション用語的には「パンツ」と記すみたいだが、文筆業界においては下着のパンツとの区別がややこしいので、できるなら「ズボン」と表記したい)を履くスタイルは腰履き、尻履き、挙げ句の果てには膝上履き……と、いったんドラスティックに足元へと下がっていき、ようやく最近は「やっぱ、腰あたりが無難だよね」と、落ち着きを取り戻しているよう……。だが、そんな「ズボンずり下がり現象」に目もくれず、頑なな姿勢で胸板下部あたりまでベルトの位置を上げ、ぎゅうぎゅうに締めつけ続ける御仁も少なからず実在する。そして、こういうトレンド無視の“ベルト高”にこだわるズボン・スタイルを、ファッションに一家言ある輩たちが揶揄の意味も込めて「乳首履き」と呼ぶ。

 乳首履きを愛用する層は、40代以上の男性がほとんどだが、この世代の大半は、まだ骨格が純日本的、つまり“短足”ゆえに、「少しでも足を長く見せたい」という切なる想いを抱きがち。なので、睾丸さえ二つに割ってしまいかねないハードな乳首履きの潜在的人気は根強く、絶滅までには最低でも、あと20年以上はかかりそうだ。さらに、乳首履き世代は「シャツをキチンとズボンの中に入れないと、すぐ風邪を引く」と思い込んでいる世代でもあるので、インナーでベルト位置を隠せないのも難点だ。

   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


山田ゴメス(やまだ・ごめす)
日曜日「ゴメスの日曜俗語館」を担当。大阪府生まれ。エロからファッション、学年誌、音楽&美術評論、漫画原作まで、記名・無記名を問わず幅広く精通するマルチライター。『現代用語の基礎知識』2005年版では「おとなの現代用語」項目、2007年版では「生活スタイル事典」項目一部を担当。現在「日刊SPA!」「All About」の連載やバラエティ番組『解決!ナイナイアンサー」(日本テレビ)の相談員で活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など。趣味は草野球と阪神タイガース。
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