NHKの籾井勝人(もみい・かつと)新会長(70)が就任記者会見で「(従軍慰安婦は)戦争地域にはどこでもあった」「政府が右ということを左というわけにはいかない」などと、NHKの公共性、自主性を疑われる問題発言をしたため、国内外から厳しい批判を浴び、衆院予算委員会にも参考人招致され「不適切だった」と陳謝する羽目になった。

 「安倍首相のポチ」であることを自ら認めた籾井氏の会長としての適正はもちろん、自分の考えと近い経営委員を多数送り込み、会長人事を意のままにした安倍首相の露骨なNHK介入に対して「やりすぎだ」との声が上がっている。

 『週刊ポスト』(2/21号、以下『ポスト』)は、NHKは北朝鮮報道と同じ「安倍官邸広報室」だとし、視聴者から集めた受信料6500億円を湯水のように無駄遣いしていると指弾している。

 目下、籾井会長が目論んでいるのが、自分の片腕となるNHK副会長に現NHKプラネットの専務で政治部出身の堂元光氏の起用だと『ポスト』が報じている。

 これまでもNHKは島桂次や海老沢勝二という政治部出身の会長を輩出したが、政権との距離が近すぎると批判され失脚してきた。

 『ポスト』によれば、このところのNHKの安倍首相ゴマすりは目に余るものがあるという。昨年12月23日、80歳を迎えた天皇陛下の「お言葉」を伝える際、「憲法が我が国の平和にとって守るべきものという護憲の思い」(『ポスト』)の部分をカットして放送したのは、改憲論者の安倍首相に“配慮”したのではないか。

 多くの反対があった特定秘密保護法についても、社会部から取り上げるべきだという声が上がっても、政治部主導の上層部がウンといわなかったそうだ。『クローズアップ現代』のキャスター国谷裕子さんもこの法案に反対で、番組でやるべきだと訴えたが取り上げられず、その不満から「降板するという話も出ている」(社会部記者)という。

 2001年に放送された『戦争をどう裁くか』(NHKのETV特集)に対して安倍官房副長官(当時)らが圧力をかけたことが問題になったが、そのときのディレクターで武蔵大学教授の永田浩三氏は「NHK問題を考える会」で、特定秘密保護法をNHKが取り上げられなかった理由をこう語っている。

 「明らかに安倍総理の意を受けた人たちが経営委員会に入ってきてその人たちを怖がって、すでにニュースがねじ曲がっている表れだと思っています。(中略)NHKの中の人たちがおびえていて白旗を揚げているからです。つまり、たたかう状況にないからです」

 NHKは潤沢な受信料収入を背景に、民放とは比べものにならない制作費を使っている。

 「12年度の各キー局の制作費がフジテレビ993億円、日本テレビ953億円となっている。これに対し、NHKは3091億円と3倍の開きがある」(『ポスト』)

 それだけではない。14年度事業計画で東京・渋谷にある本社の建て替えを決定し、総建設費は3400億円に上るというのだ。ちなみに日テレで1100億円、テレ朝で500億円だったと『ポスト』は書いている。

 湯水のように流れ込んでくる受信料を使って、国民の知る権利に応える良質な番組を放送することが使命であるはずの公共放送が、いち権力者に奉仕するNHKに堕したのでは、NHKなど見ない、受信料など払いたくないという人が増えるはずだ。だが、近年NHKは未払い者に対して提訴に踏み切るなど強硬策を進め、安倍政権の後押しで「(受信料引き下げとセットで)受信料の義務化」を前向きに検討しているというのである。

 税金のように受信料を徴収された揚げ句に大本営発表ニュースばかりを見させられるのではたまったものではない。

 だが、ほかの大メディアも安倍政権にすり寄っているのは同じである。『ポスト』は昨年から今年2月4日までに安倍首相詣でをしたメディアトップたちを列挙している。読売新聞の渡辺恒雄会長が断トツに多くて6回。産経新聞の清原武彦会長が4回、フジテレビの日枝久(ひえだ・ひさし)会長は3回。朝日新聞の木村伊量(ただかず)社長と毎日新聞の朝比奈豊社長も2回会っている。
 
 元NHKの政治部記者・川崎泰資(やすし)氏は『ポスト』でこう批判している。

 「籾井会長は国会で『国際放送の要請放送』に関する規定を問われ、『義務というか必要』と答弁した。政府の要請を無批判に報道するならば、北朝鮮の放送と何も変わらなくなる。ジャーナリズムに恐ろしく無知な会長を選んだ経営委員、そして彼らを選んだ安倍首相の責任を追及すべきメディアが及び腰ならば、NHKと同じくらい罪は大きい」

 安倍首相のポチになりきるのなら、われわれの受信料は返上して、安倍首相からもらえばいい。こうしたメディアの危機にもかかわらずNHK内部から声が上がってこないのは、永田氏のいうように、本当に安倍ウイルスに冒されて腐ってしまっているのかもしれない。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 ソチ五輪にそろそろ飽きてきた人向けに、週刊誌でなくては読めない記事を3本選んでみた。

第3位 「恋するカトパン ダルビッシュとの極秘デート撮った!」(『週刊文春』2月20日号)
 フジテレビのエース女子アナ“カトパン”こと加藤綾子アナ(28)とダルビッシュ有(27)の「極秘デート」だ。
 2人の事情を知る関係者はこう語っている。
 「加藤はダルを『人見知りするけど、かわいいいところがある』とベタ惚れでした。先輩の高島彩(34)には盛んに恋愛相談を持ちかけ、煮え切らない態度の彼に『もっとハッキリしてほしい』と苛立ちを隠せずにいました」
 女の噂の絶えないダルだが、今回は本気かもしれない。

第2位 「お父さんがAV男優でごめんな」(『週刊ポスト』2月28日号)
 夫がAV俳優、妻がAV女優だったという夫婦は多いようだが、子どもが生まれ、年ごろになったとき、子どもに自分の仕事のことをどう話すのかは、なかなか難しいようである。
 田淵正浩さん(46)はキャリア25年のベテランAV男優。そのうち娘から自分の仕事について聞かれる日が来るだろう、そのときはこう言おうと思っているという。
 「その時、娘から不潔とか、許せないとなじられたら、僕は素直に『ごめんね』と謝ります。弁解なんかしないし、仕事の内容も説明しない。ひたすら謝りつづけるつもりでいます」
 わかるなぁ~その気持ち。

第1位 「4月『沖縄安保闘争』で血の惨事が起きる!」(『週刊ポスト』2月28日号)
 『ポスト』の沖縄で安保反対闘争が起きるという「衝撃シミュレーション」である。
 これは絵空事ではない。沖縄の日本政府や沖縄以外に住む日本人たちへの恨みは爆発寸前である。内地に住む日本人と同等の権利を持てるという謳い文句で「本土復帰」を果たしたはずなのに、米軍基地は固定化され本土の“身代わり”にされたままの沖縄の人たちのなかに、日本からの独立を真剣に考える者も多くいる。
 安倍首相の進める積極的平和主義は、沖縄にさらなる犠牲を強いるものだから、こうした恨みが過激化する要素は十分にある。

 闘争が起こる時期は4月だという。下旬にはオバマ大統領の来日が予定されているからだ。

 「そのさなかに米軍基地をめぐって官邸が恐れているような流血の惨事が発生すれば、安倍首相は首脳会談で『日米安保体制の強化』を演出するどころではなくなる。
 そのとき、事態を重く見た“安倍嫌い”のオバマ大統領が来日中止を判断する可能性は決して小さくない。それは安倍首相にとってまさに祖父が辿った同じ道ではないか」(『ポスト』)

 沖縄にこれ以上米軍基地を押し付けておいていいのか? 安倍首相がこれからも日米安保体制を続けるというのなら、東京や大阪、名古屋に基地を移すべきであろう。

 舛添都知事は、電力の大消費地である東京に原発を誘致し、東京に8つある米軍基地をもっと拡げ、沖縄の負担を軽減すると宣言したらどうか。そうなったら東京にいたくないという人や企業は東京から出て行けばいい。快適さだけを享受して嫌なものは遠ざける大都市など滅びてしまうがいい。東京都民の一人として、心底私はそう思っている。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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