長い間漬物樽に漬け込んであった、少々漬かりすぎた感じの漬け物のことをいう。一般に古漬けといわれ、京都の家庭では「ひねこうこ」とか、「ひねたおこうこ」などという通称で呼ばれている。「ひね」は漢字で「陳」と書き、古くなったり、むだになったりしたことを表すことばである。しかし、ものによって陳麹(ひねこうじ)とか、陳生姜(ひねしょうが)などというと、長期間にわたって貯蔵、熟成され、ひと味もふた味もうま味を増した状態のものをさすこともある。ひね漬けというのは、ちょうど中間ぐらいの感じであろう。一般的な漬け物は、秋以降に収穫された根菜などを、冬にかけて塩漬けや糠漬けにする。いろいろな根菜の収穫期や漬かり具合に合わせ、ちょうど正月ぐらいに食べごろとなるようにつくられる。春になるころには、その漬け物は発酵が進みすぎてくるので、香りが強くなり、酸い味わいがどんどんきつくなってくる。これがひね漬け。しかし、食べ方をちょっと工夫すれば、それまで以上においしく食べられるのである。

 例えば、すぐきのひね漬けであれば、葉も根の部分も細かく刻み、ちりめんじゃこや野菜などを混ぜ合わせて食べる。醤油を数滴垂らし、まろみを加えれば、お茶漬けにしても、ごはんと炒めてもおいしく食べられる。さらに、漬けてから1年以上も経ったような年代物もある。大根のひね漬けであれば、贅沢煮にして食べる。まず、ひね漬けをそのまま水に浸けてけだし(塩抜きし)、適度な塩気の残っているうちに引き上げる。それを鍋に入れ、だしじゃこ、醤油、鷹の爪を入れて煮ると、立派なおばんざいができあがる。漬け物を材料に、さらに手間をかけて調理するので、贅沢煮という名称がつけられたそうである。京都ではスーパーマーケットの総菜売り場に必ずある定番品である。


贅沢煮は安く気軽に手に入り、ごはんのすすむ定番のお総菜である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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