政府は日本を観光立国とすることに力を入れている。実際、テクノロジーと伝統文化が調和した我が国を旅することは、日本人自身が思う以上に外国人にはエキサイティングなようだ。となると、英語とローマ字が統一されていない、観光地の案内表示がどうにも気になってくる。

 2013年、「国会前」の案内表示を「Kokkai」から「The National Diet」に変更したことが話題になった。「正しい英語」に直すことで、外国人にとって確実に状況は改善された。一方、政府は単純に英語に直すことだけを「国際化」と考えているわけではない。2014年3月、観光庁がまとめたガイドラインでは、温泉地における外国語表記をそのまま「Onsen」にすることを提案している。ちなみに、これまでは「Onsen」「Hot Spring」「Spa」などが各地で混在していた。「コッカイは伝わらない」、しかし「オンセンなら伝わる」という判断は正しいだろう。

 最近では漫画『テルマエ・ロマエ』などに描かれているように、日本の温泉文化は世界の中でも特異だ。単に「湯に浸かる」という行為のみならず、温泉街や温泉宿を含めた、まさに「オンセン」としか表現のしようのない文化がそこにある。指針は「日本語の読み方が広く認識されている場合」、英語の補記は不要としており、「Onsen」はこれに当たるもの。確かに、海外のガイドブックではまさに「Onsen」として紹介されることが多いのだ。訳すとニュアンスの変わってしまう単語が、国外からそこそこ理解されているという現状は、まさに日本文化のユニークさを象徴しているといえる。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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