東芝の最先端の半導体技術の不正流出が発覚した。流出先はライバルの韓国企業で、近年、半導体市場でシェアを伸ばしていた。研究データを持ち出したのは、東芝の業務提携先の元技術者で、2014年3月、不正競争防止法違反(営業秘密開示)容疑で警視庁に逮捕された。

 日本企業が持つ技術が、退職、転職者を通じて海外企業に流出するケースが後を絶たない。経済産業省が2012年に製造業、情報産業、サービス業などの企業を対象に実施した実態調査によると、「過去5年間での人を通じた営業秘密の漏洩事例」について、「明らかにあった」が6.6%、「おそらくあった」6.9%だった。併せて13.5%の企業で流出があったと回答した。

 技術流出が増えている背景には、国内の物づくり企業で工場の海外移転が進み、リストラが進んでいることがある。経産省の実態調査では、情報を漏らした人の半数が中途退職者だった。

 一方、中国、韓国などのハイテク企業は日本の技術者OBを積極的に採用している。そうした人材の流れを通じて、日本の技術やノウハウも流出しているというわけだ。

 技術流出に伴う被害額は莫大な額に達するケースも。東芝は、今回の流出事件を受け、元技術者と韓国企業を相手取り、計1100億円の損害賠償訴訟を起こした。新日鉄住金も2012年に韓国の鉄鋼メーカー、ポスコなどを相手取り、約1000億円の損害賠償訴訟を起こしている。経産省は技術流出を防止するためのガイドラインを策定するなどして対策に当たっているが、うまく機能しているとは言えない。行政、捜査機関と企業との情報交換、それに新たな法整備が必要だろう。

 産業スパイによるものを含め、このまま海外への技術流出を阻止しないと「物づくり大国・日本」がその基盤から崩れる。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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