日本の細胞生物学者。30歳。2011年から独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター・細胞リプログラミング研究ユニット・ユニットリーダー。

 2014年1月28日に上司の笹井芳樹副センター長、若山照彦現山梨大学教授らとともに「外からの刺激で体細胞を初期化することにより、全ての生体組織と胎盤組織に分化できる多能性を持った細胞(STAP細胞)を作製する方法を世界で初めて確立した」と発表し、科学雑誌『ネイチャー』(2014年1月30日号)誌に論文が掲載された。

 酸性溶液に浸して培養するだけで簡単にできる、山中伸弥教授のiPS細胞よりがん化リスクが少ないなどと主張し、世界中が驚き称賛した。

 小保方さんのお祖母ちゃん譲りの割烹着で研究する姿が可愛いと一躍人気者になり、“リケジョ(理系女子)の星”だと多くのメディアがもて囃した。

 しかし、世界中で試みたSTAP細胞の「追試」がどこもできないことや、インターネット上で『ネイチャー』論文の中にある画像の使い回し、切り貼り疑惑などが指摘され、彼女が早稲田大学時代に提出した博士論文のコピペ問題も発覚して、小保方さんの科学者としての資質に対して疑問の声が広がっていった。

 疑惑が発覚してから、各週刊誌はもっぱら小保方さんのプライバシーを暴くことに終始した。「小保方晴子さん乱倫な研究室」(『週刊文春』3/27号、以下『文春』)はこう報じた。

 小保方さんのもう一つの謎は金回りの良さだったと、元同僚のB氏が語る。

 「研究員は貧乏暮らしが常ですが、彼女は上から下まで、ヴィヴィアン・ウエストウッドを着て決めていた。『わたし、ヴィヴィアンしか着ないの』『本店から案内が送られてくるの』と自慢げに語っていましたね」

 続けてこう話す。

 「いちばんびっくりしたのが彼女の住まいです。彼女は理研に来てから二年間、神戸の高級ホテル『ポートピアホテル』でホテル暮らしをしていたのです」

 『文春』が調べたところによると「同ホテルは最低ランクのシングルルームでロングステイ割引したとしても、一泊七、八千円はかかるという。部屋代だけで月に二十万円超の計算」になる。そして週刊誌の常套手段、上司の笹井氏との“不倫”の噂。

 「笹井先生は、iPS細胞でノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥・京大教授への対抗心を燃やしていました。二人とも同学年ですが、もともと笹井先生の方が圧倒的にリードしていた。(中略)
 ところが、iPS細胞で山中先生が大逆転した。
 そんな笹井先生の前に、STAP 細胞という夢の万能細胞をひっさげて現れたのが小保方さんだった。これで一気に山中先生を追い越せると笹井先生は思ったのかもしれません」(同僚C氏)

 笹井氏の小保方さんへの入れ込み方は相当なものだったようだ。

 「疑惑が浮上し始めてから、笹井先生は『僕はケビン・コスナーになる』と語っていたそうです。ケビン・コスナーが主演した『ボディガード』のように、小保方さんを守り続けるという意味なのでしょう」(C氏)

 そうした中で当初は「研究成果自体は揺るがないと考えている」としていた理研もやむなく調査委員会を作り調査を始めた。そして4月1日に「小保方研究ユニットリーダーが捏造にあたる研究不正行為を行なった」との最終報告を発表したのだ(ただし1年かけてSTAP細胞の作成再現の検証をする)。

 これに対して小保方さんは猛然と反発し、理研側に不服申し立てをするとともに、4月9日に自費で「反論記者会見」を開いたのである。そこで彼女は、論文の不備については謝罪したが、「STAP細胞はあります。STAP細胞作りには200回以上成功している」と“断言”したのだ。

 そして満を持したように小保方さんを“守る”と宣言したと噂される共同執筆者の笹井氏も16日に記者会見を開き、論文に関して疑惑を招く事態となったことは申し訳ないと謝り、信憑性に疑惑を持たれた小保方論文は撤回するほうがいいとはいったが、STAP細胞の存在については「合理性のある有望な仮説だと思っている」と、口調は柔らかいがハッキリと言い切ったのである。

 私は門外漢だからコトの真相などわかりはしない。だが、今回の騒動を考えるためには、自らも認めているように研究者として未熟な小保方さんの個人的な問題とSTAP細胞の可能性とは分けるべきであろう。

 小保方さんの“色香”や付け睫毛、ヴィヴィアン・ウエストウッドの指輪に見とれて、STAP細胞のなんたるかを検証もせず、世界的な発見だ、ノーベル賞ものだとバカ騒ぎしたメディアの罪は重い。

 理研の対応の遅れや不十分な調査、共著者なのに論文の稚拙な間違いさえチェックできなかった、あまりにも無責任な態度は責められて然るべきである。

 さらに「研究者は常に真理をありのまま語るべきだ」(東京大学教授のロバート・ゲラー氏=4月15日付の朝日新聞)ということでいえば、何の真理も語らず“だだっ子”のように「STAP細胞はあります」とだけ言い募る小保方さんは、研究者のあるべき態度とはいえまい。

 だが、笹井氏の話を聞いていて得心がいった。STAP細胞は大きな可能性をもった「仮説」だったのだ。にもかかわらず、斯界の第一人者たちが共同執筆者に名前を連ねての『ネイチャー』誌への論文寄稿と記者会見で、iPS細胞を超える万能細胞がすぐにでも実用化するとメディア側は勝手に“勘違い”し、国民もそう思ってしまったのだ。

 もちろん、研究者としては「ノーベル賞」ものの研究だと騒いでくれたほうが予算が付きやすいから、あえて騒ぐに任せたのではないか。

 実際のところSTAP細胞研究は笹井氏の言うように、まだ緒に就いたばかりの「仮説」なのだから、これから長い時間をかけて検証していかなくてはいけない。コペルニクスが地動説をいい始め、ガリレイが地動説に有利な証拠を多く見つけたが、それをニュートンが完成させるまでに100年以上かかっているのだ。

 笹井氏が本当に「STAPは有望で合理的な仮説と考える」のならば、小保方、笹井氏を中心とした研究チームを作り、あと何十年かかろうとこの研究を続けさせるべきではないか。そうしなければ今回のことで地に堕ちた日本の科学技術の信用を取り戻すことはできないと、私は思うのだが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週はスクープではなく、こんなことやっていいの? といういささか「とんでも記事」を3本選んでみた。

第1位 「独占 愛は憎しみに変わった 小保方晴子が大反論!」(『週刊現代』4/26号)
第2位 「『小渕優子総理』5か年育成計画」(『週刊ポスト』4/25号)
第3位 「田中将大 悩みは英語ができない広報とまい夫人を待つ『奥様会』」(「週刊文春」4/17号)

 第3位。順風満帆に見えるマー君だが、楽天広報部長から彼の専属広報になったA氏とまい夫人は英語が得意でないため、『文春』は「心配だ」としている。
 特にまい夫人の社交界デビューで、メジャーの各球団には奥様会というのがあり、チャリティオークションなどをやったりするそうだ。
 162億円の夫を持つ夫人には風当たりが強いのでは、などといらぬ心配をしている。
 野茂英雄がメジャーに行くとき、バカな記者が、あんたは英語が出来ないがどうするのかと聞いてきたとき、僕は英語を勉強するためにアメリカに行くわけではないと答えたという有名な話がある。
 マー君もまい夫人も、英語なんてものはそこに長く暮らしていれば誰でも覚えるのだから、英語を覚えようなんて時間があったら、身体をいたわり、松坂大輔のように太らないようカロリーコントロールすることに時間を使うべきだろう。

 2位の『ポスト』の記事は小渕恵三元総理の忘れ形見、優子(40)が総理候補に浮上しているというとんでも記事。いくらなんでもと思うが、『ポスト』によれば安倍首相は石破茂の次の幹事長に彼女を据えるサプライズを考えているという“見方もある”と報じている。
 元参議院議員のドン・青木幹雄氏と野中広務氏がバックにいて帝王学を授けているというのだが、ほんとかね? まあ安倍首相よりはいいと思うがね。

 堂々の第1位は『現代』の小保方晴子の記事。タイトルに偽りありである。
 新聞広告でもド派手に打っていたので、9日の会見後にインタビューに成功したのかと思って読んだが、何のことはない、会見の要約である。
 『現代』は変則発売(4月11日発売)であった。締め切りぎりぎりだが、『フライデー』とともに、会見後最初に出る週刊誌だから、派手に打ちたい気持ちは分かるが「独占」はないだろう。
 だってサブタイトルに「理研のドロドロ内幕を、すべてバラす」とまであるのだから、立ち話でもいいから、なにか聞けなかったものか。
 私がよくやった手は、インタビューが出来ないとなったら、会見でこういう趣旨のことを質問するのだ。たとえ小保方さんが「そういことはよくわかりません」とでも答えてくれれば「独占」とうたっても許される(?)と勝手に考えるのだが、それすらないのでは、誇大広告だといわれても仕方あるまい。
 まあ、これで売れてくれれば、読者から叱られても痛くはないのだろうがね。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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