これだけインターネット環境が身近なものになると、「ネット界」という言葉も使いづらい。その示す範囲がいくらでも広がってしまうからだ。かつての世間のニュアンスで言えば、相手と自分の顔が見えない中で、ようやく自分の感情を吐露できるタイプが集う空間、といったところだろうか。もちろん偏見に違いないが、一面の真実もある。「リア充」=リアル(現実社会)での暮らしが充実している者に対しての「リア充爆発しろ」は、そのルサンチマン(妬み)をよく表しているコメントだ。

 ネットという空間は、SNSが一般化する前まで、じつは「リア充」を寄せつけない雰囲気があったように思う。ところが今では、フェイスブックなどで、リア充が日々の暮らしぶりを気軽に公開する場にまでなった。こんなものを食べた、こんなパーティーをした、こんな旅の最中だ……。そこには、いままでネットにいる間だけは見なくてすんだ、眩しいライフスタイルがある。「リア充投稿」の存在は、ある種の人間にとっていらだちを覚えずにいられないのである。

 一方で、はたから見れば「リア充」側にいるような人間の心にも「闇」は存在する。発信する側にしてみれば、なんの気なしにアップしただけのデートやボランティアの投稿が、どうもイラッとくる……、そんなタイプがいる。あえて分析するならば、「恋」や「人助け」をしているといった種々の「アピール」が、「押しつけがましい」というわけだ。現実社会でも、軋轢を生むのは悪意でなく、ごく一般的な行動であったりする。ネット社会も、リアルに限りなく近づいているのかもしれない。詰まるところ、いろんな感覚がある中で、個人がうまく気を遣い、またわざと鈍感になりながら生きる難しさは、リアルでもネットでも変わることがないのだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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