水溶きした葛粉に砂糖、餡を加えて練り、型に流して蒸してから六方を焼いたお菓子である。葛焼餠ともいう。梅雨入りぐらいからの夏の間は、特別に珍重されるお菓子で、茶会には欠かせない。

 つくり方は、まず葛粉、ザラメ糖、餡を混ぜ合わせ、熱を加えつつ半透明になるまで練ってから蒸し上げる。それを枠に流して冷やし、小麦粉をまぶしたら、一面一面に均一な熱を伝えながら焼き上げる。見た目の似ている金鍔(きんつば)は、水溶きした小麦粉を使って焼くので、焼き上がりはまったく違うものである。また、最初に鶏卵を混ぜたり、表面に片栗粉をまぶしたり、餡を入れないものなどもある。いずれも、薄味の地味なお菓子であることに変わりはないので、気になっていながら食べる機会のなかった人も多いのではないだろうか。

 仕上がりのよしあしを決めるのは、奈良県吉野の伝統製法でつくられた葛粉、ザラメ糖の純度や小豆の質の高さであり、その素材を生かす職人の微妙な火加減あたりにかかっている。おいしいものは、ふるふるとしながらも腰のある葛特有の食感があり、さらに焼けた表皮がふるふるした中身と渾然としている。こんな渋くて味わいのあるものこそ、ひいきにする人が実は多いのである。


淡い上品な甘さと重さを感じさせないぐらいのもっちり感。蒸し暑い季節には格別なるおいしさ。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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