総売上高2兆円、従業員約3万4000人、228社のグループ会社を抱える飲料業界最大にして超名門企業だが、佐治信忠会長兼社長(68)が発表した後継者が大きな話題を呼んでいる。

 サントリーは明治時代に創業した初代・鳥井信治郎氏、息子の佐治敬三氏、孫の鳥井信一郎氏、信一郎氏のいとこにあたる信忠氏と、4代115年にわたり同族経営で、非上場で発展してきた会社である。

 そこにまったくの外様である新浪剛史(にいなみ・たけし)・ローソン会長(55)を据えるというのだから、社内外から驚きの声が上がったのも無理はない。

 『週刊現代』(7/12号、以下『現代』)によれば「役員や幹部にさえ知らされず、完全に佐治さんの独断」だというのだ。創業家側に次期社長と目されている鳥井信宏氏(48)がいるにもかかわらず、なぜ佐治会長は新浪氏に白羽の矢を立てたのか。

 『現代』によれば佐治会長は「社長に一番ふさわしい人がトップに立つのがサントリーのためだし、社員のため」だと語っているそうだ。

 鳥井氏ではダメだといっているようなものだが、創業家が株の90%を持っている会社なのに大丈夫なのかと心配になる。

 新浪氏は三菱商事出身で02年からローソン社長を任され、中国や東南アジアへの積極的な出店や新業態店の拡大で低迷していた同社を再建した手腕が買われたようだ。サントリーの海外販路を活用して「山崎」や「白州」「モルツ」といった日本ブランドの酒を世界に売っていくことを期待されている。佐治会長とはゴルフ仲間。

 大英断かご乱心か、評価は分かれるようである。経済ジャーナリストの片山修氏がいう、両者のビジネスに違いがありすぎるのが不安だとする意見が代表的なものかもしれない。

 要するにウイスキーなどの蒸留酒は熟成に時間がかかるため「在庫ビジネス」といわれ、辛抱強さが必要で技術者のこだわりも強い。したがってコンビニ流通のように商品展開のサイクルが速くスピードが問われるビジネスとは違うセンスが必要になるというものだ。

 『現代』は7/19号でもこの問題を取り上げ、経営者たちにどう見ているのかインタビューしている。概ね「勇気ある決断」であり、サントリーは創業者が大半の株を握っているので「新浪氏を監視できる」、「もし業績を上げられないのなら1年目で判断して2年以内に切れ」という新浪氏にはやや手厳しい意見が多いようだ。

 サントリーと同じように話題になっているのがタケダ(武田薬品工業)である。03年から長期にわたって社長を務めてきた長谷川閑史(やすちか)氏が次期社長に外国人社長を招聘すると発表したのだが、こちらのほうの評判は芳しくない。

 それは長谷川氏が業績を好転させていないのに長く居座ったことに加え、要職に外国人を次々招聘し、古くから社内を知るベテランが去っていることにあるようだ。

 『現代』はソニーや日本板硝子(いたがらす)、オリンパスなど外国人を社長に据えた企業が成功していないと懸念している。同誌は経済専門家28人に5年先、30年先を読んでいる会社、目先のことで手一杯の会社という特集を組んでいるが、サントリーとタケダはハッキリ明暗が分かれている

 サントリーは5年先が見えている会社の中で、ファーストリテイリング、ソフトバンクに次いで3位だが、タケダは目先のことで手一杯の会社の中でソニー、任天堂、東京電力、シャープに続いて5位にランクインしている。

 私はこうしたことに専門外だが、酒好きということでひと言いわせていただきたい。私がサントリーに少し不安を抱くのは、今年5月にバーボンで有名な「ジムビーム」を1兆6千億円で買収したことだ。

 海外に出たことのある人は知っていると思うが、海外ではアルコール度の強い酒は敬遠される傾向にある。よほどこだわりのある人でないとウイスキーやバーボンのストレートを飲む人は少ない。

 中国でさえ、以前は宴会での乾杯酒は茅台(マオタイ)酒だったが、ここ数年はワインかビールである。ビールも以前は日本と同じ5%程度のアルコール分があったのに、最近は3%前後のものばかりで、私など薄くて飲めたものではない。

 サントリーがウイスキーやバーボンなどを主軸にして海外戦略を立てているとしたら意外に苦戦するかもしれない。サントリーのモットーは「やってみなはれ」である。「新浪はん、やってみなはれ、ダメだったら替わりなはれ」では、新浪氏も立つ瀬がなかろう。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 NHKの朝ドラ「花子とアン」の人気がまだまだすごいようだ。今週はこの話題で3本選んでみた。

第1位 「『花子とアン』と『真珠夫人』実在モデル柳原白蓮 実娘が語る素顔」(『週刊文春』7/10号)
第2位 「あの脇役たちは実はこんな人たちです」(『週刊現代』7/19号)
第3位 「吉高由里子『蛇にピアス』の全裸セックスシーンで魅せた女優魂」(『週刊ポスト』7/18号)

 第3位。『ポスト』の記事はやや遅きに失した感がある。方々で書かれ尽くした後だから新味がない。この映画は金原ひとみの芥川賞受賞作で、監督が蜷川幸雄という話題作だった。
 まだ新進女優の吉高が挑んだ「痛みを感じることでしか生の実感を得られない」19歳の主人公の過激なセックスシーンなどが話題になった。NHKのアンと比べて見るのも一興か。

 第2位。『現代』によると「東京編になってきておもしろさがアップしてきた」という。吉高演じるはなと既婚者の村岡英治との恋。
 夫・嘉納伝助との夫婦関係に悩む蓮子の前に登場する帝大生・宮本龍一。はなの妹・かよを演じるベルリン国際映画祭最優秀女優賞を獲得した黒木華(はる)など、見どころは多いようだ。

 第1位。『文春』は、はな以上に注目を集める葉山蓮子に焦点を当てて特集を組んでいる。
 蓮子のモデルは「情熱の歌人」と謳われた柳原白蓮(びゃくれん)である。
 白蓮の父は明治天皇の側室として宮中に上がり大正天皇を生んだ柳原愛子(なるこ)の兄・柳原前光(さきみつ)伯爵だが、白蓮は妾腹の子で9歳の時養女に出され、14歳で一度結婚している。
 だが婚家の扱いがひどく離婚する。女学校を卒業すると遙かに年上の福岡の石炭王と結婚させられてしまう。カネはあるが何人もの妾を持つ夫との仲は冷え込み、白蓮は以前からやっていた歌に打ち込む。
 1920(大正9)年、白蓮が書いたものを読んで訪ねてきた東京帝大の学生・宮崎龍介と恋に落ちる。白蓮35歳、龍介27歳。世にいう「白蓮事件」である。
 『文春』によれば白蓮と龍介が交わした手紙は700通にも上り、『文藝春秋』の昭和42年6月号には白蓮のこんな文言があるという。

 「もう現在の境遇には耐えられない。これまで何度自殺しようと思ったかしれない。いまの状態から一刻も早く私を救い出してほしい」

 情熱が伝わってくる文章である。まだまだ「花子とアン」は見どころいっぱいのようだ。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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