7月17日、オランダ・アムステルダムを飛び立ちマレーシアのクアラルンプールを目指していたマレーシア航空機MH17が、親ロシア派の勢力圏であるウクライナ東部上空で、地対空ミサイル「BUK(ブク)」によって撃墜され、乗客283名と乗員15名が全員死亡した。

 現時点では親ロシア派の武装勢力がウクライナ軍の軍用機と間違えて撃ち落としたという見方が有力なようだが、戦争の悲劇という言葉で済ますことのできない許しがたい蛮行である。

 『週刊新潮』(7/31号)のモノクログラビアに「Magnum Photos」が撮った墜落の現場写真が載っている。テレビや新聞では見ることができない生々しい遺体も写る、人間の愚かさを余すところなく映し出した必見の一枚である。

 193人の犠牲者を出したオランダはもちろんのこと、アメリカやEUは、親ロ派武装勢力の背後にいるプーチン大統領への批判を強め、EUもロシアの基幹産業への経済制裁を実施することを決め、プーチンとの親交を深めていた安倍首相も仕方なく追加制裁に踏み切った。

 残念ながら、こうした複雑な世界政治が絡む事件に関しては、ほとんどの日本の週刊誌は読むべきものがない。『週刊現代』(8/9号)のように「ふざけるな、プーチン!」とヒステリックに叫ぶか、『週刊文春』(7/31号)のように「日本・ロシア・北朝鮮『新三国同盟』の悪夢」のように的外れな論調を並べ立てるだけである。

 保守的で現政権には批判的だが『ニューズウィーク日本版』(8/5号、以下『ニューズ』)を読むと、この事件とイスラエルのガザへの軍事作戦がアメリカ・オバマ大統領にとってどれほどの重荷になっているかがよくわかる。

 実は、アメリカは今回と同様のことをイラン・イラク戦争下の1988年7月3日に起こしているのだ。ペルシャ湾のホルムズ海峡上空で米海軍のミサイル巡洋艦「ビンセンス」が、イラン航空機をイラン軍の戦闘機と誤認して撃ち落とし、290人が犠牲となった。

 しかしこのときもアメリカは多くの嘘を重ねていい逃れ、米政府が遺族への補償を決め、遺憾の意(謝罪ではない)を表明したのは事故から8年後だった。

 パレスチナ自治区ガザにイスラム原理主義組織ハマスの連中はほとんどいないといわれる。ほとんどが民間人で、1時間にひとりの子どもがイスラエルの爆撃によって犠牲になっているといわれる。

 『ニューズ』は、ワシントンで行なわれた会合で駐米イスラエル大使が「IDF(イスラエル国防軍)は想像を超える自制心を持って戦っている。ノーベル平和賞を贈られてもいいくらいだ」とぶち上げたと報じている。

 こうした自国の利益しか考えないエゴ大国(中国も含まれるだろう)に対しオバマ大統領の発言力は日に日に衰弱し、世界の至るところが戦場になりうる状況は日に日に悪化している。

 もはや世界一の軍事大国で核爆弾を何千発保有しようと、「世界の警察」として各地で起こる紛争を抑止できる力はアメリカにはないのである。

 こうした現実認識が安倍首相を含めた日本人の多くにはないのだ。あれば、いまのような世界情勢の中で、アメリカに付き従って戦争をできる国にしようなどというバカなことは考えるはずはない。

 考えてみるがいい。仮に今回撃墜されたマレーシア航空機に多くの日本人が乗っていたらどうであっただろう。直情径行型の日本人の多くは「プーチンを引きずり出せ」「ウクライナの親ロ派を殲滅せよ」と息巻くであろう。だが、中国はもとよりアメリカもEUも同情はしてくれても同調はしないだろう。

 思えば「冷戦時代」は単純な構図であった。いまのようにアメリカの力が低下し複雑な政治や宗教が絡む時代に必要なのは、武力による解決ではなく話し合いによって「平和」を取り戻すための支援であるはずだ。

 いつ日本にも降りかかってくるかもしれない「悲劇」のために、この撃墜事件を我がこととして考えることが一人一人に求められていると思う。

 『ニューズ』のアテフ・アブサイフ氏(作家・ガザ在住)のこの言葉で終わりたい。

 「すべてが数字に変換される。数字の背後にある物語は隠され消し去られて、生身の人間の魂と体が数字に還元される。(中略)

 1人の父親か母親が殺されれば、子供たちが残される。その子たちはヒーローではなく、悲しみを抱えた人間だ。(中略)

 それなのに誰一人として数字の背後にある物語を聞き出そうとしない。砲弾が吹き飛ばした日々の営み。その掛け替えのない輝きが、死者数という数値に隠され、永遠に失われる」


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 「死ぬほどSEX」はひところのように騒がれなくなったが、週刊誌と性にまつわる記事は切っても切り離せない関係にある。今週はその性が絡んだ記事を3本取り上げてみた。性に迷って人生を踏み外した人もいれば、性を声高に叫んで注目を集める人もいる。人“性”いろいろである。

第1位 「わいせつ逮捕された女性芸術家の『女性器アート』を見よ」(『週刊ポスト』8/8号)
第2位 「ジャニーズ18歳『妊娠・堕胎・ポイ捨て』告白テープ」(『週刊文春』7/31号)
第3位 「静岡セクハラ検事正更迭理由はタクシー内“胸モミ事件”」(『週刊文春』7/31号)

 第3位は『文春』。静岡地検の糸山隆検事正(57)がセクハラで更迭されたが、『文春』は被害者が職場の部下ということだけしか報じられていないと、その生々しいセクハラぶりを明らかにしている。

 「被害者は静岡地検の若手女性検事です。今月初旬、職場同僚の少人数の宴席があり、泥酔した糸山検事正を検事正公舎まで送るために、女性検事と男性職員の二人がタクシーに同乗したところ、糸山検事正が女性検事の胸をむんずと揉んだそうです。女性検事は上司に報告、目撃者があったこともあり、直ちに東京高検から最高検、法務省へと報告が上がった」(社会部デスク)

 しかも静岡地検では昨年6月に、女性事務官が同棲中の男と山口組系暴力団幹部に捜査情報を漏らしたとして逮捕されたばかり。そこへ乗り込んで「県民の信頼を回復する努力をする」と会見で言っていた当人がセクハラで更迭では信用失墜の上塗りである。

 第2位も『文春』お得意のジャニーズ事務所ネタ。ジャニーズJr.に森田美勇人(みゅうと)(18)という若いのがいるそうだ。その彼に16歳のころに知り合い交際していたA子さんという彼女がいた。だが今年3月、A子さんに子どもができてしまったため、彼女に堕胎させたあげく、事務所に知られて付き合いを禁止されたとして、ポイと捨てたというのである。
 おまけにこの若いの、付き合い始めた当時から酒を飲んでいたという。この子にしてこの親あり。この男の母親までがしゃしゃり出て、彼女に「私はあんたを許さないよ!」「子供を堕ろしたのは可哀想だけど全部こっちのせい?」とA子さんを面罵したというのである。
 ここにはA子と森田の会話も載っている。男女の中だから色々あるのは仕方ない。だが、『文春』の通りだとしたら、未成年のくせに飲酒が日常的で、子どもを堕ろさせて平然としている人間にお咎めなしとは、AKB48以上に躾けが厳しかったはずのジャニーズ事務所とは思えない“変節”ぶりではないか。この事務所の落日を思わせる記事である。

 今週の第1位は『ポスト』の記事。女性器の3DデータをダウンロードできるURLを支援者にメールで送付したことが罪に当たるとされ、連行された女性器芸術家・ろくでなし子氏(42)。
 逮捕容疑は「わいせつ電磁的記録頒布」というものだそうだ。

 「3Dプリンターという新しい技術が出てきたので、警察は『これは取り締まらないと』と判断したのでしょう。3Dプリンターで拳銃を製造した事件が世間を騒がせたばかりなので、世論を味方にできると考えたのかもしれません。それと並行して、昨年7月にはコアマガジンの取締役らが男女の性器写真を掲載した雑誌を販売したとしてわいせつ図画頒布で逮捕されており、警視庁保安課がわいせつ規制を強めているのは間違いありません」(警視庁担当の全国紙記者)

 当然、わいせつ表現も表現の自由に入る大事なものだが、権力側は手を入れやすいものだから、こうしたところから出版社に圧力をかけてくることが多い。

 「『わいせつ規制』という名の下に、表現の自由への介入が平然と行なわれているのだ。さらに、そうした公権力の暴走に疑問を持つことなく発表内容を垂れ流す報道機関は、表現の自由の規制に加担していることに気づいていない。
 本当に公益のために性表現を規制するというのであれば、何がわいせつで何がそうでないかを国会で堂々と議論し、法制化することでわいせつの定義を明確化するのが筋である」

 パチパチパチ。その通りである。
 だがこのろくでなし子氏、ただものではない。3Dスキャンの技術を使って女性器の大きな作品を作ることを思いついたそうだ。それが女性器型舟「マンボート」だった。彼女が自説をこう述べている。

 「男性は、女性の体を消費物として見ているから、猥褻なものだと思うのでしょう。テレビでも、ちんこと言っても問題ないけど、まんこはNG。だけど、女性にとっては体の一部で、自分のもの。猥褻だとは思いません。なのに、女性はまんこの悩みや相談をできない状況にあります。私は活動を通じて、まんこの権利『まんこ権』を向上させたいんです」

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読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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