8月5日、タイ・バンコクのコンドミニアムで生後間もない9人の乳幼児が保護される事件が発生した。どの子どもも1人の日本人男性がタイの代理母に産ませた子どもだと判明し、タイの国家警察が捜査に乗り出して大きな騒ぎになっている。

 このほかにも7人の子どもがおり、そのうち4人はすでに国外に出ているそうだ。

 タイ警察はこの男性が事情聴取に応じなかったため、名前や生年月日を公表し、この男性が重田光時氏(24)と判明した。

 彼の父親は重田康光氏(49)で、IT企業大手「光通信」の創業者である。『週刊文春』(8/28号、以下『文春』)によれば「光通信」は携帯電話の販売代理店からスタートした会社で、浮き沈みはあったが現在はグループ会社200社以上を抱え、連結の売上高は5600億円あるという。

 光時氏は長男で「光通信」の株などを持ち、資産は100億円を優に超えるといわれる。独身の大金持ちがなぜ代理出産で多くの子どもを産ませたのか? 光時氏は相続税対策などと言い訳していたようだが、そんな説明で納得する者はいないだろう。

 『週刊新潮』(8/28号、以下『新潮』)は、警察が踏み込んだとき子どもの世話をしていた27歳の日本人女性がいて「この子らの母親です」と話したと報じている。光時氏の彼女と思われるが、「実は彼女、もともとは男性で、最近、性転換手術を受け、女性になった人物なのです」と地元メディアの記者が話している。

 しかし、同性婚で子どもをつくれないからといって何十人も代理出産させるというのはありえない話だろう。しかも代理出産にあたって、光時氏は女性側に様々な条件を出しているのだ。

 代理出産を引き受け双子を産んだアナンヤー・ペンさんが『文春』でこう語る。

 「クリニックの担当者から、胎児の発育状況や健康状態にかかわらず、『お産は九カ月目に帝王切開で行なう』と言われました。また、『胎児に障害や、健康状態に少しでも異常がみられるようなら即刻中絶してもらう』とも言われました」

 タイのほかインドでも2人産ませたという情報もある。しかも光時氏は女の子はいらなかったようだ。男の子の名前にはすべて「ミツ」という発音が入っているそうだが、女の子には入っていない。

 代理出産してくれた女性には約100万円近く払われたそうだから、現時点でも6000万円以上が使われていることになるという。光時氏に代理母を2人紹介した女性が昨年8月、バンコクの日本大使館にメールを送り、こう警告していたと『文春』が書いている。

 「彼は、『毎年十人から十五人の子供が欲しい』と言っており、百~千人もの子供を作ろうと計画しているようです」

 謎を解く鍵になるかも知れない情報がある。『文春』は父親・康光氏の高校時代の愛読書がヒトラーの『わが闘争』だったとし、両親もカンボジアにある光時氏の隠れ家に何度か訪れ、母親が赤ちゃんを抱きしめていたと報じている。

 代理出産というやり方で重田帝国を築くつもりなのだろうか。

 『新潮』で精神科医の町沢静夫氏がこう分析している。

 「この人物は、斡旋業者に(中略)、自分の遺伝子を多く残すことが社会にとって善だという主旨の話もしています。(中略)この発想から、『生命の泉』計画など、優性思想に基づいて優秀なアーリア人をどんどん増やし、ドイツ民族の繁栄と純血を守ろうと、ナチス・ドイツのヒトラーが行った一連の政策に通じるものがあると思わざるを得ませんでした」

 「生命の泉」計画とは、ナチス親衛隊長官だったハインリヒ・ヒムラーが、優秀な親衛隊隊員とドイツ人女性をカップリングし、生まれた子どもはすぐ母親から引き離し「子どもの家」で育てたことをいう。この計画によって4万人の子どもが“生産”されたといわれているそうだ。

 私もこの話を聞いて『ブラジルから来た少年』という映画を思い浮かべた。ブラジルでヒトラーのクローンを現代に再生させようと企む科学者と、それを阻止しようとするナチ・ハンターのユダヤ人との闘争を描く、アイラ・レヴィン原作の映画化である。

 光時氏は精子を冷凍保存する機械を設置したいと話していたという。豊富な資金があれば、彼の死後も保存された精子で代理出産を続け、念願の子孫を1000人にすることも不可能ではない。

 その子どもたちが成長して結婚し、子どもをつくれば100年後には……。

 光時氏たちがそう考えているのか、現時点ではわからない。だが、科学の進歩は生命倫理の枠を一気に超えてしまうかも知れないのである。『文春』は「女性を『産む機械』のように扱う光時氏は、生命倫理を冒涜しているとしか思えない」と難じているが、重いテーマがわれわれに突きつけられた事件であることは間違いない。

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 今週はタイの代理出産を含めて重要なテーマが多い。朝日新聞の従軍慰安婦検証エボラ出血熱はどこまで広がるのかなどである。それに加えて人材派遣会社パソナの会長で安倍首相肝いりの産業競争力会議の民間議員である竹中平蔵氏の問題発言を取り上げた。

第1位 「朝日新聞『慰安婦虚報』の『本当の罪』を暴く」(『週刊ポスト』8/29号)
第2位 「『エボラ出血熱日本上陸』の最大リスクは『中国人とコウモリ食』だ」(『週刊ポスト』8/29号)
第3位 「竹中平蔵『日本の消費増税は失敗する』」(『週刊ポスト』8/29号)

 第3位。『ポスト』が竹中平蔵氏を直撃している。インタビュアーは須田慎一郎氏。
 嫌な質問もしているのだが、竹中氏はのらりくらりといつものように体をかわしている。
 だが、この部分は傾聴に値する。6月の勤労者世帯実収入は前年同月比で6.6%も減ったが、という質問に対して、

 「竹中 それは消費税が上がった影響が大きいでしょう。消費で見ると3月には駆け込み需要で増えているが、5月の落ち込みはひどかった。内閣府の想定以上だったと思います。 
 これは強調しておきたいのですが、そもそも私は消費増税には反対の立場です。消費税を上げたらマイナス効果が大きいというのは当たり前の話です。安倍さんにしても、本音では消費税は引き上げたくなかったと思います。(中略)
 米ハーバード大のアルバート・アレシナ教授がまとめた『アレシナの法則』というものがあります。多くの国のケースで、財政再建に成功した国と失敗した国を検証しています。
   結論は極めて常識的で、先に増税した国は失敗している。一方、公務員の給与や社会保障などとことんまで歳出削減したうえでそれでも足りない部分を増税で補った国、これだけが成功しているのです。(中略)
 今の社会保障制度を前提に続けるならば、消費税率を30%強にしても財政赤字は残る計算です。消費税をいくら上げても足りないんです。だから、幸いにして高齢でも働けて年金をもらわずに済む人はもらわないようにしないといけないのではないか。これはすぐにはできませんから、時間をかけて議論していく必要があるでしょう」

 この男、若者や女性たちから“搾取”するだけでは足りないと、年寄りたちも働かせ、年金を召し上げて搾り取ろうという算段のようだ。
 こうした人間がのさばっていられる国が住みやすいわけはない。

 第2位。ところで致死率は最大で90%という恐怖の感染症・エボラ出血熱が西アフリカで史上最大規模の猛威をふるっている。
 エボラ出血熱の特徴について、『ポスト』で感染症専門家の元小樽市保健所所長・外岡立人(とのおか・たつひと)氏がこう解説する。

 「感染者には発熱や頭痛、下痢、内出血に加え、皮膚など全身からの出血といった症状が現われます。ワクチンや有効な治療法はなく、感染すれば50~90%が助からないとされます。ただし、インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)のように咳やくしゃみでうつることはなく、発病者の血液や汗、糞便などに潜んでいるウイルスが傷口や粘膜を通じて入り込むことによって感染する。
 西アフリカで感染が広がっているのは、亡くなった身内を埋葬する時に亡骸を触る習慣があるからだと考えられています。また、公衆衛生のレベルが遅れていて、医療担当者の知識も不足している。感染拡大阻止に必要な予防衣やゴーグル、手袋も十分に揃っていないのが現状です」

 エボラ出血熱の感染源と考えられているのはコウモリである。

 「コウモリはエボラウイルスの自然宿主であり、西アフリカにはコウモリを食べる習慣がある。過去に流行した際も、コウモリから人に感染したと考えられています。米紙ニューヨーク・タイムズが報じたところでは、WHO(世界保健機関)は今回の流行について昨年12月にギニア奥地の小さな村に住む2歳の子供がコウモリと接触して感染したのが発端だとみているようです」(外岡氏)

 ここから『ポスト』流というか、あの中国が危険だと、こうもってくる。

 「西アフリカ同様に、コウモリを食べる文化が存在するのが中国である。
中国本土にある広東料理店店主が語る。
 『広東省周辺には野生動物を一般的な家庭料理として食べる習慣があり、市場でも食用コウモリが売られています。一部では高級料理の食材として利用され、クコの実や生姜と一緒に丸ごと煮込んでスープにしたりします。スープに浸ったコウモリの肉も食べる。繊維が細く、味はさっぱりとしていて鶏肉に近いですよ』」

 このウイルスと同様の殺人ウイルスが蔓延する恐怖を映画化した『アウトブレイク』が封切られたのは、1995年である。あのときは映画の中だけだと思っていたのに、現実が追いかけ、追い越していく。こうした治療の難しい病気がこれからますます増えていくのであろう。それによって人類は滅びるのかも知れない。

 朝日新聞は8月5日の朝刊で「慰安婦問題 どう伝えたか」と題する検証記事を組んだ。そのなかで韓国・朝鮮の女性を強制的に慰安婦に徴用したと話した吉田清治氏(故人)の証言について「虚偽だ」と判断し記事を取り消す、当時は虚偽の証言を見抜けなかったと自ら検証した記事が大きな話題を呼んでいる。
 これまでも『ポスト』は、従軍慰安婦に対する軍の「強制性」があったことを否定しており、ここぞとばかり舌鋒鋭く切り込んでいる。これが今週の第1位。

 「多くの左派言論人や反戦活動家が『慰安婦が苦しんだのは事実だから、強制連行がなかったとしても問題の本質は変わらない』と話をすり替えていることだ。これは決定的に間違っている。なぜなら、世界で日本が『特殊な性犯罪国家』と非難され続けてきた理由は『強制連行』の一点だからだ。(中略)
 米軍はじめ世界中の軍隊が『強制連行ではない慰安婦』を雇っていたのであり、『女性たちが苦しんだ』ことは日本だけが非難される問題ではない」(『ポスト』)

 さらに「朝日新聞は検証記事で吉田証言の記事は取り消したが、植村記事については『事実のねじ曲げはなかった』と強弁した。それは、韓国の反日団体、日本の“人権派弁護士”と連携して『強制連行』を国際社会に浸透させ、日本政府からカネを巻き上げる片棒を担いだという疑惑こそ、朝日が絶対認めたくない慰安婦報道の急所だからではないのか」(同)
 『ポスト』は「朝日の虚報によって日本国民は冤罪の犠牲者になり、国際社会に慰安婦=性奴隷説が定着していく。
 06年には米国議会調査局が『日本軍の慰安婦システム』と題するレポートを発表。吉田氏の証言が引用され、翌年には米下院で日本政府に対する慰安婦への謝罪要求決議が成立した」と、朝日新聞のでたらめな報道で日本人全体が辱められたと憤る。
 西岡力(つとむ)東京基督教大学教授もこう言う。

 「朝日が報じたような事実はなく、慰安所では外出の自由もあった。朝日が吉田証言を完全に否定した以上、日本だけが国際社会から性奴隷国家だと批判される理由は全くないといえます」

 海外メディアがこの朝日新聞の検証記事を報じないことや、安倍政権の河野談話を見直ししないという姿勢もこう批判する。

 「国内では朝日を批判しながら、国際的には朝日の虚構から組み立てられた河野談話を踏襲するダブルスタンダードでは、世界に広がった『性奴隷』のイメージを払拭できるはずがない」

 『週刊現代』も『ポスト』ほどではないが、こう書いている。

 「度重なる誤報にきちんと向き合わず、訂正を行わなかった朝日の怠慢は、韓国の反日感情を高めた挙げ句、謂(いわ)れなき日本叩きのための『武器』まで与えてしまったのである。朝日の誤報以降、日韓の歴史が歪められたとも言える」

 まるで日韓関係の悪化は朝日の従軍慰安婦報道にだけあるかのような言い方である。朝日新聞・植村隆元記者の数本の従軍慰安婦についての記事が誤りだったとしても、日韓併合や植民地時代の苛烈な支配、原爆症で苦しむ朝鮮人被爆者や慰安婦たちの苦しみを、この誤報だけで帳消しにできないはずだ。
 8月6日付の朝日新聞で、父も祖父も太平洋戦争中に強制収容された日系人、米ジョージ・ワシントン大学教授のマイク・モチヅキ氏がこう語っている。

 「多くの日本人がもう『もう十分だ。未来志向で行こう』と言うが、それを言うのは被害者の側であって、日本人はまず『私たちは忘れない。過ちを繰り返さない』と言い続けるべきだ」

 NHK BS1スペシャル「オリバー・ストーンと語る 原爆×戦争×アメリカ」でもオリバー・ストーン監督が概ねこう語っている。

 「記憶こそが我々を人間たらしめる『よすが』なのだ。自分が何を為したのかの記憶なくして人は後悔したり罪の意識を抱くことはない。歴史家が記憶を残すのはそれを忘れないためなのだ」

 朝日新聞が誤報を認めたからといって、日本がアジアでした行為を歴史から抹消することはできはしない。原爆を落とされても核の平和利用だと言われれば数多の原子力発電所をつくり、あれほどのことをされたアメリカを憎まず、植民地のように付き従う日本という国は、世界から見れば理解しがたい人間の集まりに見えているのではないか。
 自分たちの父祖がやったことを忘れず、それについて考え続けることこそ、いまの日本人に最も必要であること、言うまでもない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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