毎朝の新聞をめくるとき、「ラテ欄の縦読みが密かな楽しみ」という人は、案外、多いのではないだろうか。

 新聞には、ラジオやテレビの放送予定を表形式でまとめた番組表が掲載されており、略して「ラテ欄」と呼ばれている。このラテ欄は、それぞれのテレビ局やラジオ局が提供した放送内容をそのまま掲載しており、実際に執筆しているのは番組を作成したディレクターやプロデューサー。ご存知のとおり、ラテ欄のスペースは決まっており、限られた文字数のなかで視聴率に結びつくような番組紹介をするために、彼らはさまざまな工夫を凝らしている。

 その工夫の一つが、「ラテ欄の縦読み」だ。ラテ欄は横書きで、通常、横に読み進めるものだ。そのラテ欄の各行の先頭の文字(いちばん左側)を縦に読んでいくと、別の意味のある言葉や文章が浮かび上がってくるのだ。ラテ欄の縦読みは、2010年に北海道放送が北海道日本ハムファイターズ戦の注目を引くために、プロ野球中継に使ったのが最初だと言われている。それが、各放送局に広まり、名物縦読みが生まれるようになった。

 今年、8月6日。プロ野球・広島対中日の野球中継を紹介するために、中国放送が新聞各紙のラテ欄に配信したものを縦読みすると「カープ応援できる平和に感謝」というメッセージが浮かび上がり、話題となった。

 今から69年前の8月6日は、世界ではじめて原子爆弾が投下され、広島の街が火の海と化した悲劇的な日だ。数万人以上の尊い命が一瞬にして奪われ、今もまだ後遺症に苦しむ人々がいる。広島東洋カープは、敗戦から5年後の1950年に、広島市復興のシンボルとして、広島市民や企業の寄付によって結成された球団だ。その広島原爆忌に行われる野球中継に、平和を願うメッセージを盛り込んだラテ欄は多くの人の感動を誘った。

 ラテ欄の縦読みは、縦書きの1文だけではなく、横書きで読んでも全体の意味が通じるようにしなければならないため、作成者の苦労も偲ばれる。だからこそ、名文が生まれたときの感動も大きいのだろう。今後も、「カープ応援できる平和に感謝」のような名文が生まれることを期待したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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