8月27日、日本でデング熱の国内感染が見つかった。

 海外渡航歴のない人の感染は、1945年以来、69年ぶりの出来事で、9月1日までに10~50代の男女22名の感染が確認されている(9月2日には新たに12名の感染者を確認、計34名)。

 デング熱は、デングウイルスに感染することで起こる急性熱性感染症で、3~7日(最大2週間)の潜伏期間のあと、突然38~40度の熱を発症する。また、頭痛、皮膚の発疹、筋肉痛や関節痛などがおもな症状だ。

 東南アジアや中南米などの亜熱帯、熱帯地方で多く見られており、海外の流行地で感染し帰国した事例は、日本でも毎年200例程度報告されてきた。ただし、海外に渡航していない人の国内感染は戦後はじめてとなるため、今回、新聞やテレビのニュースでも、大きく報じられている。

 デング熱にかかっても、体内からウイルスが消えれば症状もなくなる。適切な治療を受ければ、ほとんどのケースで完治するので、闇雲に心配する必要はない。

 とはいえ、現状では治療のための特効薬や予防のためのワクチンはなく、医療機関で行なわれる治療は、熱を下げたり、痛みをとったりするための対症療法だ。体力が低下していると症状が長引いたり、まれに出血症状を発することもある。体力の弱い高齢者や乳幼児は重症化するおそれもあるので、市民が協力して感染の拡大を防ぐようにしたいもの。

 デング熱は、人との接触で感染するものではなく、蚊を媒介にして感染が広がる病気だ。おもな媒体蚊は、亜熱帯、熱帯地方に生息する「ネッタイシマカ」で、日本には常在していない。ただし、「ヒトスジシマカ」でも媒介することがわかっており、こちらは日本でも青森県以南の地域で生息している。

 今回の国内感染は、海外でデング熱に感染した人が帰国して、日本国内でヒトスジシマカに刺されて、その蚊がほかの人を刺したことで発生したルートが疑われている。

 感染を避けるには、できるだけ蚊に刺されないように、山や公園など蚊が多くいる場所に行く場合は、虫よけスプレーを利用したり、長袖、長ズボンを着用するようにしたいもの。また、媒介となる蚊のボウフラを発生させないようにすることも大切だ。

 1942年、太平洋戦争中にデング熱が大流行したとき、厚生省(当時)は「患者は発病後5日間、昼夜、蚊帳のなかで静養するように指導する」「患者が発生したところから半径300mの範囲内は、蚊の発生を極力予防する」といった通達を出し、二次感染を防ぐために患者が蚊に刺されないような指導を行なった。また、防火用水槽でメダカや金魚を飼ってボウフラが沸くのを防いだり、蚊取り線香や蚊帳を利用して蚊に刺されないようにするなど、一般市民も公衆衛生の向上に協力をしたという。その結果、1942年に日本で始まったデング熱の大流行は3年で収束。以後、69年間、デング熱の国内発症は報告されなくなった。

 そのデング熱が、再び、国内発症したのは、海外渡航の活発化、気候の変化もあるだろうが、現代人の公衆衛生に対する甘さの現れもあるように思う。

 今回、感染者は、いずれも東京・渋谷の代々木公園を訪れたあとに発熱などの症状を訴えており、ここで蚊に刺されたことが原因と見られている。そのため、東京都は8月28日の夕方、代々木公園で殺虫剤の散布を行ない、感染の媒介となる蚊の駆除を実施した。

 だが、公衆衛生は行政だけに任せておけば守れるものではない。ヒトスジシマカの幼虫は、空き缶やペットボトル、古タイヤに溜まった水、庭やベランダの植木鉢の受け皿などによく発生する。ゴミをポイ捨てしない、自宅の周りの水溜りを放置しないなど、市民が主体となって蚊が発生しない環境をつくっていくことも感染症の予防に重要なことだ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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