朝日新聞(以下、朝日)が8月5日付朝刊で「慰安婦問題 どう伝えたか」と題する自社報道を検証する長文の記事を掲載した。そのなかで戦争中、植民地だった朝鮮の女性を暴力などを使って強制的に慰安婦に徴用したと話した吉田清治氏(故人)の証言を、当時は「虚偽」だと見抜けなかったと認め、当該の記事を取り消した

 以来、保守派メディアだけではなく社内やOB、寄稿者たちからも批判が相次ぎ、130年以上の歴史をもつ名門メディア・朝日が大きく揺れている。

 なかでも週刊誌の朝日叩きはすさまじい。「朝日新聞『慰安婦虚報』の『本当の罪』を暴く」(『週刊ポスト』8/29号、以下『ポスト』)「朝日新聞の断末魔」(『週刊文春』9/11号、以下『文春』)「おごる『朝日』は久しからず」(『週刊新潮』9/11号、以下『新潮』)「『慰安婦報道』で韓国を増長させた朝日新聞の罪と罰」(『週刊現代』9/6号)などなど。

 『新潮』(8/28号)は櫻井よしこ氏にこう言わせている。

 「『職業的詐話師』と秦氏(注・秦郁彦氏)が喝破した吉田氏の嘘を、2014年までの32年間、事実上放置した朝日は、その間、捏造の『強制連行』説の拡散を黙認したと言われても仕方がない。(中略)
 史実を曲げてまで日本を深く傷つけた朝日は、全力で国際社会に事実を伝えたうえで、廃刊を以てけじめとすべきだ」

 私はもう一度朝日の当該記事を読み直してみた。吉田証言は指揮命令系統からも、当時の吉田氏がいたという陸軍の大部隊が済州島に集結する時期などからも、事実とは思われないことがかなり前から判明していたというのだから、もっと早く虚偽だという判断はできたはずである。

 なぜ今なのかという疑問がわく。『文春』(8/28号)によれば木村伊量(ただかず)社長の判断だというが、木村社長は、「ちゃんと謝ったほうがいい」という旧友に対して「歴史的事実は変えられない。したがって謝罪する必要はない」と答えたと言う。おかしな話である。

 虚偽を報じたのなら潔く訂正して謝罪するのが当たり前ではないか。検証記事のなかで、他紙も吉田証言を使ったではないかという言い方をしているが、見苦しい。

 推測するに、安倍政権になって右派的論調が強まり部数的にも苦戦しているのであろう。首相動静を見ていると木村社長は安倍首相と何度か会っているから、直接苦言を呈されたのかもしれない。困った木村社長が渋々決断したのではないか。

 だが、社内にはこの時期にこうしたものを載せるのは如何なものかという反対意見も多くあったはずだ。そこで吉田証言が嘘だったことは認めるが謝罪はしないということで妥協を図ったから、あのような中途半端な検証記事になったのではないのだろうか。

 しかし、これだけの大誤報を認めた以上、木村社長は謝罪会見を開き潔く身を処すべきだと思う。

 そのうえで朝日は、日韓併合や植民地時代の苛烈な支配、原爆症で苦しむ朝鮮人被爆者や慰安婦たちの苦しみを、この誤報で帳消しにしてはいけないと主張するべきである。

 戦時下で、多くの朝鮮人女性が甘言をもって慰安婦にされ、他人には言えない苦労を強いられたことは歴史的事実なのだ。これから朝日がやるべきことは、吉田証言とは別に日本軍の強制性を示す事実を、総力を挙げて取材し、紙面で発表することである。

 そうしなければ、右派のメディアや論客たちによって「強制性」はもちろんのこと、従軍慰安婦は自ら志願し、カネも自由もふんだんにあった悪くない“職業”だとされかねない。

 だが、その後も朝日は判断を誤り続けている。

 8月28日には『文春』の広告の掲載を「朝日新聞社の名誉と信用を著しく傷つける表現がある」として拒否したのである。『新潮』の広告も載っていない。

 言論には言論で対抗するのがジャ-ナリズムのイロハである。自分の気に入らない言論を弾圧するのかと、右派陣営にさらなる攻撃材料を与えてしまった。

 朝日綱領には「常に寛容の心を忘れず」とあるではないかと『文春』(9/4号)が書いているが、その通りである。

 さらに朝日は、連載コラム「池上彰の新聞ななめ読み」の掲載を、朝日に批判的に書いてあるという理由で掲載拒否してしまうのである。池上氏が連載を降りると言い出し、ネットやツイッターなどで批判が高まったため、やむなく9月4日に渋々載せるのだが、そこにはこう書いてある。

 「今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報告しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫びがなければ、試みは台無しです。
 朝日の記事が間違っていたからといって、『慰安婦』と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです。
 でも、新聞記者は、事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか」

 何とバカなことをしたのか。週刊誌には多くの社外ライターによる連載やコラムがある。編集部の方針と違うことをその人たちが書くことはままあるが、それだからといってその週は掲載しないとか、書きかえてくれということはありえない。

 『文春』には朝日内部に強力な「協力者」がいるのであろう。木村社長の社内メールがそっくり載っている。

 「『慰安婦問題を世界に広げた諸悪の根源は朝日新聞』といった誤った情報をまき散らし、反朝日キャンペーンを繰り広げる勢力には断じて屈するわけにはいきません」

 「今回の紙面は、これからも揺るぎのない姿勢で慰安婦問題を問い続けるための、朝日新聞の決意表明だと考えています」

 朝日夕刊の名物コラム「素粒子」を執筆していたOBの轡田隆史(くつわだ・たかふみ)氏も『文春』誌上でこう難じる。

 「木村社長自らが一面に登場し、潔く謝罪するべきでした。
 朝日の『従軍慰安婦』報道は決定的にひどい誤報です。(中略)何の説明にもなっていない記事を出してうやむやにし、時間が経過するのを待っているように思える。今の朝日は、醜態を晒し続けています」

 同じ『文春』で気になったのが朝日の現場の若手たちの声だ。20代社員がこう言っている。

 「これまでは『朝日新聞です』と自信を持って名刺を出せたけど、今は出しづらい雰囲気」

 昔、ビートたけし軍団が『フライデー』編集部に乗り込んで傷害事件を起こしたとき、大新聞を先頭に写真誌批判が巻き起こった。そのころ、編集部の若手たちがこう嘆いていた。

 「取材相手に『フライデー』と名乗れないので、講談社と言って会いにいっています。首尾よく会ってくれても、たけし事件やプライバシー侵害について聞かれ、取材になりません」

 私はほかの部署にいたが、編集部員が自分の所属している誌名を名乗れないような雑誌は潰すべきだと社内で主張した。部員が自分のやっている雑誌に誇りを持てなくて、魅力ある誌面づくりなど出来ようはずがない。当時、毎週10万部単位で部数が落ちていった。

 同じようなことが朝日新聞でも起こらないとは限らない。沖縄のサンゴを傷つけて写真を撮った写真部員の不始末の責任を取って一柳(ひとつやなぎ)東一郎社長(当時)は職を辞した。

 社長が辞めることが最善だとは思わないが、今度のことは木村社長自らが決断してやらせたのではないか。これだけの批判を浴びているのだから、社内メールで戯けたことをほざいていないで、表に出てきて釈明した後、出処進退を潔くするべきだ。

 そうしなければ朝日新聞が今後、NHK批判や安倍首相批判をしても説得力に欠けてしまう。

 私は『文春』や『新潮』の論調にすべて組するわけではない。だが、今回の誤報問題が戦後の朝日新聞の歴史のなかで最大の危機だということは間違いない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は有名人たちの醜聞プラスちょっといい話。お楽しみを!

第1位 「大原麗子が綴っていた『森進一との離婚』『田村正和への思い』『渡瀬恒彦と暮らした日々』」(『週刊現代』9/20・27号)
第2位 「佐々木主浩『実娘号泣告白』『継母・榎本加奈子は中2の私を追い出した』」(『週刊文春』9/11号)
第3位「“ブラック女帝”たかの友梨『残業代払えない』のに15億円豪邸」(『週刊文春』9/11号)

 第3位。エステの女王というらしい。高野友梨(ゆり)社長(66)が率いるたかの友梨ビューティクリニックの女性エステシャンたちが「残業代などの支払い」を求めて大揺れだと『文春』が報じている。
 エステシャンの一人に聞けば「勤務は朝九時から夜十時までが日常です。休憩はほぼ取れず、夜になって初めて立っておにぎりを食べることも。新人は一年続けば頑張ったほうで、毎年三百人が辞めていきます」というブラック企業のようである。
 だが高野社長は社員の前で「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」と、威圧したというのである。
 彼女のセレブぶりは有名だそうで、渋谷区の一等地に建つ豪邸は10数億円もするそうだが、土地の購入も建築費も会社が出していると、調査会社担当者が話している。
 全身シャネルで身を包んだ高野社長は「社員は宝だと思ってきました」と答えているが、とてもそうは思えない。

 第2位。『文春』というのはつくづく凄い雑誌だと思う。多少考え方に違いはあるから辛口も言うが、毎週スクープを連発する底力には恐れ入る。
 今週は元横浜ベイスターズの大魔神・佐々木主浩(かづひろ)の醜聞だ。佐々木は大リーグでも活躍し、引退してからは馬主としても成功している羨ましい人間だと思っていた。
 だが『文春』によれば、元アイドルと結婚して一男一女をもうけたが、大リーグに移籍した03年に女優・榎本加奈子(33)との不倫がバレて離婚。佐々木は二人の子どもの親権を持ち、榎本は正妻になり2人の子どもを産んでいるという。
 今回佐々木というより継母・榎本への恨み辛みを告白しているのは、前妻の間にできた長女(22)である。
 中学1年の時、わずか自分と12歳しか違わない継母と同居した長女は、そうとう辛い人生を送ったようだ。榎本は弁当を作ってくれず、作ってくれと頼みこんでもらった弁当を開けたら「豆腐が一丁と醤油が入っていました」。父親が不在の時は夕食も用意されていなかったことが度々あったという。
 耐えきれずに佐々木に内緒で実母に会いにいったら、約束を破って子どもに会ったと、実母は離婚の慰謝料を剥奪されたそうだ。
 そのうち継母から「一緒に住めないから出て行って」と言われ、父方の祖母の家に行かされる。継母が実子を連れてハワイに行っているとき、佐々木が自宅に呼んでくれたことがあったが、帰国した継母が「トイレットペーパーの減りが早い」と勘を働かせてバレてしまったというから、この母と娘の仲の悪さはただ事ではないようだ。
 今年、体調が悪くバイトを休みがちなので、継母に家賃の援助を申し出たら「風俗でもやれば」と言われたという。
 この言葉に衝撃を受けた彼女は自殺未遂を起こすのだが、佐々木も継母も「世間にバレたらどうしてくれるの?」というばかりだった。
 自宅に自分のモノを取りに入ったら、不法侵入だと被害届を出され、警察に事情聴取をされたそうだ。
 これに対して佐々木のマネージャーが本人に確認を取ったうえでこう答えている。

 「榎本との確執は彼女(Aさん)が一方的に思っていることでしょう。彼女の被害妄想もあると思う」

 被害届は反省を促そうと佐々木が出したそうだ。
 長女側の、なさぬ仲の継母への恨みや一方的な思い込みはあるのだろう。だが、実の娘にここまで告白されてしまうのは、父親として問題なしとはいえないはずだ。
 佐々木は「僕の教育が間違ったのかもしれない」といっているそうだが、父親として長女にそれなりの愛情を注いできたのだろうか。これを読む限り、大魔神は父性に欠けたところがあったといわれても仕方あるまい。

 第1位。今でもファンの多い亡き女優・大原麗子の肉声を綴った自作のスクラップ・ブックをスクープした『現代』の記事。
 最初に結婚して生涯好きだったらしい俳優の渡瀬恒彦についてはこう書いているそうだ。

 「すごく可愛いし カッコイイよ渡瀬サン 初めてで最後の婚約 結婚」

 だがこの結婚は5年で破局を迎える。
 実弟の大原政光氏は「渡瀬家の家風に馴染めなかった」ため、結婚したら女は家に入るべきだという渡瀬家との溝が大きくなっていったという。
 ここには書いていないが、結婚している間に森進一との“不倫”騒動(私が『週刊現代』にいるとき報じた)があったことも、離婚を後押ししたと思う。
 若いときから彼女は子どもをほしがっていたようだ。
 彼女は難病のギランバレー症候群を発症するが、それを克服して80年に森進一と結婚する。しかし結婚生活は、彼女が予想していたようには進まなかった。

 「姉が『子供ができた』と相談してきました。もちろん森さんとの間にできた子です。しかし姉はこのとき、あるドラマの主演が決まっており、出産は降板を意味していた。姉は『堕ろしたい。病院を紹介して欲しい』と言った。決意は固かったですね。森さんは何も知らなかった。姉が一人で決めたんです。
 ただ、悩んだ末の決断だったことは確かです。というのも、姉は中絶した直後に、キャッシュカードの暗証番号を変えたんです。新しい番号は、子供を堕ろした日付でした」(政光氏)

 その後84年に森と離婚。彼女には好きな俳優がいて、そのことをスクラップ・ブックに書いていたという。田村正和を尊敬していたようだ。高倉健もその一人。こう書いているという。

 「健さん、人にきびしく、自分に甘いと思うわ。でもでも大好き。そんけいしてます」

 意外なことにビートたけしもファンだったようだ。

 「私が大ファンだって知ってたでしょ 恥ずかしいから云わなかったの、云えなかったの」「(フライデー襲撃事件を受けて)君らしいしカッコイイヨ 彼女を守ったんだから。私も男だったら一人でフライデー行くな」

 多くのファンからなが~く愛されている大原麗子だが、彼女を一生愛してくれる男には出会えなかったようだ。彼女は心の中の寂しさをこのスクラップ・ブックに書き込むことで憂さを晴らしていたのだろうか。

 ここに書かれた男たちは、変な意味ではなく一度も彼女を抱いてやらなかったのだろうか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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